<社説>東日本大震災12年 「原発ゼロ」を放棄するな


社会
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 東日本大震災から今日で12年になる。巨大地震と大津波によって1万5900人が犠牲となり、2523人が行方不明のままだ。世界最悪レベルの福島第1原発事故によって周辺住民の多くが今も避難生活を余儀なくされている。

 復興庁が発表した2月現在の全国の避難者数は3万884人。最も多いのは原発事故が起きた福島県の2万7394人である。昨年、放射線量が高かった帰還困難区域の一部で避難指示が解除されたものの住民の居住は進んでいない。インフラが不十分な区域では、生活再開のハードルは高い。原発事故は今も被災地を翻弄(ほんろう)している。
 ところが岸田政権は原発依存をやめようとしない。12年前、制御困難の原発事故の恐怖と直面した私たちはエネルギー政策の転換を迫られた。政府は2012年、「原発に依存しない社会」という理念を掲げ、30年代に「原発ゼロ」とする目標を国民に示したはずである。ところが岸田政権はそれとは逆の方向に進んでいる。この目標を放棄すべきではない。
 岸田政権はロシアのウクライナ侵攻を背景とした「エネルギー危機」を理由に、原発の運転期間を「原則40年、最長60年」とする現行の規制制度を改め、「60年超運転」を可能とする方針を決めたのである。現在ある原発を最大限活用する方針への転換を図ったのだ。
 「原発回帰」へと突き進む岸田政権に対する国民の目は厳しい。1~2月に日本世論調査会が実施した世論調査によると、原発60年超運転について「支持しない」と答えた人は71%に上った。多くの国民は岸田政権のエネルギー政策転換を拒否している。
 私たちは大震災で得た教訓から巨大地震や大津波に耐えうるまちづくりとともに、原発に代わるエネルギーの確保を追求したのだ。政府はその教訓を忘れたのか。目指すべきは「原発回帰」ではなく「原発ゼロ」である。
 看過できない岸田政権の方針は他にもある。増額する防衛費の財源として大震災の復興特別所得税の一部を転用するというのである。被災地は今も復興への重い足取りを続けている。それを支えるのが政府の責務ではないのか。復興費を防衛費に回すなど、もってのほかである。ただちに撤回すべきだ。
 トルコ南東部を震源とする2月の大地震で5万人余が亡くなった。日本がそうであるように、復興には長期の年月を要するだろう。東日本大震災、1995年の阪神大震災、2016年の熊本地震を思い出した人も多いはずだ。
 被災地の復興は道半ばだ。被災者の避難生活は今も続いている。震災被害は終わっていない。これからも国民全体で被災地復興とそこで生きる人々、全国に散らばる避難者を支援しなければならない。それを政策と財政面で牽引(けんいん)するのが政府の役目である。