<社説>袴田さん再審決定 再審制度の見直し急げ


社会
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 死刑が確定している事件について、捜査機関が証拠を捏造(ねつぞう)していた可能性を裁判所が認めた。冤罪(えんざい)であることを示唆している。まずはやり直しの裁判を急ぐべきだ。

 1966年に静岡県の一家4人が殺害された事件について、死刑が確定した袴田巌さんの第2次再審請求の差し戻し審で、東京高裁が再審開始を認める決定をした。
 焦点となったのは確定判決で最も重要な証拠となった犯人が隠した衣類に付着した血痕の赤みの変化だった。
 東京高裁は赤みは残らないとした弁護側鑑定の信用性を認め「無罪を言い渡すべき明らかな証拠」と言えると指摘した。衣類は第三者が隠した可能性が否定できないとし、袴田さんを犯人と認定することはできないと結論づけた。
 第三者とは誰なのか。東京高裁は、2014年に再審開始を決定した静岡地裁に続いて、事実上、捜査機関の者による可能性が極めて高いと思われると指弾した。袴田さんを有罪とするための偽装工作をしていた可能性があるということだ。
 事件を巡っては、死刑を言い渡した68年の一審静岡地裁判決でさえ捜査の違法性を批判していた。担当裁判官は後に無罪の心証を持っていたと告白した。
 袴田さんは日本フェザー級6位まで上がったプロボクサーだった。当時、捜査当局は袴田さんを「ボクサー崩れ」と言い表したという。偏見が色濃くにじむ。
 事件から57年となる。袴田さんは87歳と高齢で、約48年にも及ぶ拘禁によって意思疎通が難しく、心身ともに不安定な状態にある。刑の執行が停止され、釈放されてはいるが、早期に権利が回復されなければならない。
 かねてから袴田さんの冤罪の可能性が指摘されてきたが、検察が抗告を繰り返してきたことが再審決定の審理を長期化させてきた。検察は直ちに特別抗告を断念し、再審に臨むべきだ。
 仮に新証拠の提示や新たな主張が可能ということであれば、やり直しの裁判で訴えを展開すればよい。
 重要証拠の認定に疑義が生じ、捏造の可能性が再び指摘されたことは検察にとって重大な問題である。裁判所が審理を尽くした結果、指摘されている捜査の問題性に検察は向き合うべきだ。判決が間違う可能性を示しているのだから、検察のみではなく、裁判所も含めた刑事司法全体の問題をはらんでいる。
 再審に関する刑事訴訟法の規定は70年以上にわたり一度も見直されていない。第2次再審請求になって検察側が違法捜査をうかがわせる取り調べの録音テープなど証拠を初提示するなど、検察側の開示姿勢が再審の可否を左右している。現状は冤罪を防ぐには不十分だ。再審に関する制度改正を含めた具体的な整備を進めなければ、司法制度に対する国民の信頼は保てない。