<社説>日韓正常化合意 東アジア平和の起点に


社会
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 岸田文雄首相と韓国の尹(ユン)錫(ソン)悦(ニョル)大統領が16日の首脳会談で関係正常化に合意した。11年以上途絶えていた首脳同士の相互訪問「シャトル外交」の再開などが柱だ。

 最も重要な隣国と対話が可能になったことを歓迎する。安全保障だけでなく、経済、文化でも密接な関係にある韓国との関係修復は、二国間の課題を解決するだけにとどまらない。将来的に東アジアの安定、平和構築へ向けた出発点となることを期待したい。
 元慰安婦や元徴用工を巡る問題をはじめ、半導体関連材料の輸出規制強化など日韓関係は戦後最悪と言われる冬の時代が続いていた。韓国軍艦船による自衛隊機へのレーダー照射もあり、信頼関係はゼロに等しい状態だった。
 正常化合意では首脳の相互訪問だけでなく、外務、防衛当局による安保対話の早期再開を確認。元徴用工問題では、韓国が提案した賠償支払いの韓国財団による肩代わりも両国で確認できた。輸出規制は既に解除が発表されている。
 安全保障面でいえば、北朝鮮の核・ミサイル開発に対処するには米国も含めた交渉の場が必要だ。今回の合意で日韓の外務、防衛当局に対話の機会が増えたことでようやくスタートラインに立てる。敵基地攻撃能力の保有など軍備増強は北朝鮮に誤ったメッセージを送ることになる。まずは対話の機会を模索すべきであり、日韓の協調は対話実現に必要不可欠なものだ。
 経済面でも日韓の結び付きは切り離せないものだ。財務省貿易統計などによると、韓国から見て日本は輸出額で5位、輸入額で3位の主要貿易国である。韓国から日本を訪れる観光客は2014年に275万人だったのが18年には735万人と約2.7倍に増えた。ただし日韓関係が悪化した19年は558万人に落ち込んでいる。
 半導体製造装置や材料で優位にある日本と、半導体自体の製造で世界的企業がある韓国の協力は世界的に見ても意義がある。供給網の世界化が進む中、日韓の経済協力はアジア発のモデルともなる。
 同時にポップミュージックに代表されるように日韓の若い世代では垣根が低くなっている。人的交流の深化は相互理解にも役立つはずだ。
 一方で日本の植民地化に端を発する歴史問題は、日本のさらなる歩み寄りが必要だ。
 元徴用工への賠償では韓国側の原告で存命の3人が受け取りを拒否している。韓国国内では尹政権の対応に「被害者無視」との批判もある。
 岸田首相は会談で「おわび」こそ明言しなかったが、植民地支配への痛切な反省を明記した1998年の日韓共同宣言を引き継ぐと表明した。
 歴史的事実を直視するのは当然である。正常化合意で日韓は新時代の一歩を踏み出した。後退させないためにも、岸田首相が自らの言葉で歴史問題に対する見解を示すべきである。