<社説>新公設市場の開場 価値再発見の場支えよう


社会
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 那覇市の第一牧志公設市場の新市場が開場した。コロナ禍を脱する、まちぐゎー(商店街)の中核施設としての役割に期待が高まる。「県民の台所」として、さまざまな知恵を凝らし、沖縄を代表する施設として発展していくことが望まれる。

 まずは再出発の日を迎えた事業者や市、市場組合の関係者らを祝福したい。老朽化が進み、耐震強度が課題となった旧市場については、観光拠点として定着していたことなどから取り壊しに反対の声もあった。
 市を含め、関係者らが協議を重ね、建て替えが決定。2019年に旧市場は閉場となり、ほぼ同時に仮設市場での営業が始まった。
 感染症の流行が始まったのはその翌年のことだ。訪日客がゼロとなり、平和通りや市場本通りなど周辺のまちぐゎーを含めて大打撃を受けた。
 工事の過程で建設地の軟弱地盤が判明。対策のため開場日は22年4月から1年遅れとなった。さまざまな困難を乗り越えての再出発だ。
 開場後、周辺を歩くと隣接する飲食店や卸業者らの明るい表情が印象的だった。まちぐゎーの拠点となる新市場の開場を心強く、頼もしく受け止めているのだろう。
 建物は完成し、営業を再開した。魅力あるスポットであり続けられるかは、これからにかかる。まずは名実ともに「県民の台所」として復活することが必要ではないか。
 90年代初めの大型店舗の出店の規制緩和によって、郊外にショッピングセンターが立地。各地域へのスーパーの出店もあり、市場での買い物客が激減していった。
 戦後、地元客に愛され、その生活に密着するように育まれた市場であることが観光スポットとしての魅力となった。
 加えて、地元の固定客がいることは持続的な営業にとっても重要だ。感染症のような外的要因で観光客が急減しても影響を受けにくい。
 工夫が魅力を添えることは市場の歴史が示している。購入した精肉や鮮魚を2階の食堂で味わえる「持ち上げ制度」の導入によって観光地化が一気に進んだとされる。
 開業直前の本紙インタビューに市場組合の粟國智光組合長は地元との触れ合い強化策として「壺屋焼の器で食べる」調理体験プログラムを例に挙げた。沖縄の伝統文化と食を結びつけることで新たな魅力を発信し、沖縄にあるものの価値が再確認される場となることに期待したい。
 粟國さんは周辺商店街との連携も重視していく考えだ。あちねー(商売)の知恵が集積され、市場の可能性が広がるだろう。
 市場の隆盛を私たち県民も支えたい。店主らに調理法やアレンジを教われば料理のレパートリーが広がる。足を伸ばして独特の相対売りを楽しみたい。市場が活力を持つことは地域全体の魅力向上にもつながる。