<社説>WBC日本優勝 新時代のジャパン魅せた


社会
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 野球の世界一を決める第5回ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)は、日本代表「侍ジャパン」が3大会ぶりの優勝を成し遂げた。

 決勝はベストメンバーをそろえた米国に3―2で競り勝った。WBC決勝での日米対決は初めてだ。日本にとって長く目標であり、あこがれであったベースボールの本場と最高の舞台で相まみえ、力と技術で対等に渡り合った。新時代の日本野球を世界に刻む大会となった。
 MVPに輝いた大谷翔平選手(エンゼルス)の二刀流の活躍は、前人未到の偉業を目の当たりにしていることを感じさせた。日本だけでなく、世界を代表して野球の魅力を伝導するスーパースターだ。米大リーグで次々に金字塔を打ち立てたイチローさんのように、大谷選手の活躍にあこがれる少年たちの中から次の日本代表やメジャーリーガーが育っていくことだろう。
 大谷選手だけではない。日系選手で初めて代表入りしたラース・ヌートバー外野手(カージナルス)はムードメーカーとしてチームに溶け込み、国際化する新しい日本代表の象徴となった。
 日本プロ野球で史上最年少の三冠王となった村上宗隆内野手(ヤクルト)は不振が続いたが、準決勝で劇的な逆転サヨナラ打を放つと、決勝では特大アーチを描いた。
 村上選手を信じて起用を続けるなど、選手の自主性を重んじて最高のパフォーマンスを引き出した栗山英樹監督の手腕は見事だった。組織の理想のリーダー像を重ねた人も多かったことだろう。
 佐々木朗希投手(ロッテ)ら若い選手も躍動した。大谷、佐々木の岩手県出身選手の活躍は東日本大震災の被災地を勇気づけたはずだ。
 沖縄県出身選手が初めてWBCの侍ジャパンに名を連ねた大会としても意義深い。
 準決勝のメキシコ戦では、山川穂高内野手(西武)が8回裏に代打で登場し、犠牲フライで値千金の打点を挙げた。大城卓三捕手(巨人)は9回表にマスクをかぶって無失点に抑え、逆転での決勝進出に勢いを付けた。宮城大弥投手(オリックス)は1次リーグのチェコ戦で、救援での大会タイ記録となる5回を投げ1失点と好投した。
 全選手が心を一つにし、最後まであきらめない結束力が数々のドラマを生んだ。県出身選手が3人も代表に加わり、世界一に貢献したことは県民にとっての喜びだ。
 一方で、サッカーのW杯に比べて野球が盛んな国には偏りがある。2024年パリ五輪は競技から外れた。今回のWBCでもトーナメント表の日程変更が大会中に発表されて批判されるなど、国際化に向けた課題は少なくない。
 国内でも少子化とプロスポーツの多様化で野球の競技人口は減少している。日本中を魅了した野球の面白さが、世界へ、次世代へと裾野を広げていくことに期待したい。