<社説>放送法4条 解釈変更は撤回すべきだ


社会
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 疑念が一層深まった。放送法4条の解釈を変更した経緯は妥当性に乏しい。うやむやにせず、政府は当時の総務相
答弁を速やかに撤回すべきだ。

 放送法の「政治的公平」の解釈を巡る行政文書について総務省は最終的な調査結果を発表し、捏造(ねつぞう)があったとは「考えていない」との見解を示した。2015年に同省の担当局長が当時の高市早苗総務相(現経済安全保障担当相)に対し放送に絡むレクをした可能性が高いことも指摘した。
 高市氏はこれまで自身が関係する4文書について「捏造」と断言し、「政治的公平」についても「レクを受けたことはない」と述べた。今回の調査報告を受け、高市氏は改めて説明すべきだ。
 安倍晋三元首相が解釈変更の議論に関わった可能性があることも最終調査で判明した。他方、「十分な事実関係の確認が困難な場合があった」などの記述が散見され、多くの内容で事実認定を避けた。このまま幕引きにしてはならない。事実関係のさらなる精査を求めたい。
 15年5月の国会答弁で高市氏が「一つの番組でも極端な場合は政治的公平を確保しているとは認められない」と述べた事実は重い。「一つの番組ではなく、放送事業者の番組全体を見て判断する」という従来の立場とは異なる見解を国会で示したのだ。「報道の自由」に関わる重大な法解釈の変更について高市氏ら当事者が説明できないというのは理解しがたい。
 総務省が公式な「行政文書」と認め、ホームページで公表した文書は官邸サイドが放送法4条の解釈変更を総務省に迫った経緯が記されている。「一つの番組でも明らかにおかしい場合があるのではないか」という当時の礒崎陽輔首相補佐官の主張や圧力から高市氏の国会答弁に至った。首相官邸に身を置く特定の政治家の発言と行動が契機となり法律の解釈が変わった。その妥当性が厳しく問われるのである。
 そもそも放送法は1条で規定している通り、放送事業者の自律の保障を基本としている。その上に立ち「政治的な公平性」についても放送事業者の自主・自律的な取り組みによって担保されるというのが従来の政府の立場だった。
 ところが高市氏は15年の答弁以降、政治的公平性を理由に「電波停止」を放送局に命じる可能性にまで言及した。放送法の趣旨に反し、放送局を萎縮させるものだ。
 高市氏の答弁について岸田文雄首相は「従来の法解釈を変更したものではなく補充的な説明をしたものだ」と説明している。松本剛明総務相も同様だ。しかし、総務省の行政文書に照らせば全く説得力を持ち得ない。
 強引に進められた放送法4条の解釈変更を放置してはならない。報道の自由を縛る高市氏の国会答弁を撤回し、本来の放送法の趣旨に立ち返るべきである。