<社説>32軍司令部壕提言 沖縄戦教訓発信に生かせ


社会
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 第32軍司令部壕の保存・公開について、有識者らでつくる検討委員会が必要な措置などを県に提言した。財源の確保などさまざまな困難が予想されるが、提言の実現に向け、県の積極的な取り組みを求めたい。公開後の先を見据え、戦争遺跡である司令部壕を活用した沖縄戦体験継承の在り方を検討してほしい。

 検討委は第32軍壕を「沖縄戦の方向性を決定づける判断がなされた重要な場所であり、沖縄戦の実相と教訓を伝える歴史的遺産」と定義した。その上で第1坑口と坑道、第5坑口の整備を優先し、段階的に壕の保存・公開に取り組むことを提言した。
 沖縄戦直前の1945年1月、大本営が策定した「帝国陸海軍作戦計画大綱」は、南西諸島を本土防衛のための「前縁」とし、「本土決戦」の準備が整うまでの時間稼ぎの「捨て石」と位置付けた。この結果、県民に多大な犠牲を強いた。この戦略持久戦を指揮したのが第32軍であり、首里城地下に築かれた壕に司令部が置かれた。
 戦力の大半を失っていたにもかかわらず、32軍司令部は45年5月、持久戦を続けるため、司令部壕の放棄と南部撤退を決めた。県民の生命を度外視した無謀な判断で南部に避難していた住民を戦闘の巻き添えにした。32軍司令部壕は「軍隊は住民を守らない」という沖縄戦の教訓を伝える戦争遺跡である。
 32軍司令部壕の公開を求める声は過去にもあった。県は90年代、公開を目指して司令部壕を調査したが、財政上の問題などから公開を見送った。2019年に焼失した首里城の再建に伴う周辺整備で司令部壕が注目され、保存・公開の機運が高まっている。
 ことしの県政運営方針で「保存・公開に向けた取り組みを進める」としていた玉城デニー知事は、提言を受け「これが最後のチャンス。平和を希求する沖縄の心を国内外に発信していきたい」と述べた。公開の在り方を検討するため長野県の「松代大本営壕」も視察している。
 玉城知事は財源について国への要請の必要性にも言及した。首里城一帯の都市公園としての整備であることからも国との連携は必要だろう。
 ただ、公開の在り方については、県が主体的に関わらなければならない。公開を通じて何を発信するか明確にすべきだ。そのためにも現地調査と合わせ証言や資料の掘り起こしなど司令部壕を軸とした調査研究の継続が求められる。
 提言書は文化財指定への取り組みも促した。指定によって開発行為の抑制など、保存継承を法的にも担保できる。
 壕の保存だけで終わらせてはならない。記憶をいかにつなぐかだ。沖縄戦の体験者とともに次の世代が壕について学ぶことは大きな意義があろう。そのための時間は長く残されていない。デジタル技術を用いた公開などについても急ぎ検討してもらいたい。