<社説>教科書検定 悲劇の背景まで学びたい


社会
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 沖縄戦の悲劇はなぜ起きたのか。その背景までしっかり学ぶことができる環境をつくりたい。沖縄戦を学び、悲劇の背景を考える上で教科書の記述は重要な意味を持つ。

 文部科学省は2024年度から小学校で使われる教科書の検定結果を公表した。小学6年生が使用する社会科の教科書では、検定に合格した3社3冊が沖縄戦における「集団自決」(強制集団死)を取り上げている。
 しかし、日本軍による「強制・関与」や「軍命」の記述はなく、米軍の攻撃に追いつめられ「集団自決」に至ったという内容にとどまっている。現行教科書も同内容で従来の編集方針を踏襲した。
 スパイ嫌疑による日本兵の住民虐殺と並んで沖縄戦最大の悲劇とされる「集団自決」が起きた理由や背景をたどるとき、日本軍の存在を抜きに考えることはできない。住民が追いつめられ、自発的に死を選んだと捉えては沖縄戦の実相を見誤る。3社の記述では不十分と言える。
 「集団自決」の原因について直接的な「軍命」の有無だけで論じてはならない。捕虜となることを禁じた「戦陣訓」を住民に押しつけたことや、日本兵が住民に対し米軍への恐怖心をあおったことが原因として挙げられる。沖縄戦を戦った32軍が掲げた「軍官民共生共死の一体化」の方針も住民に「玉砕」を迫る強制力となった。戦前・戦中の軍国主義教育も影響した。
 これまでの沖縄戦研究の積み重ねによって日本軍によるさまざまな「強制・関与」、軍国主義教育の影響が指摘されてきた。「集団自決」の背景に何があったのかを学び、理解を深めるためには、教科書の記述も沖縄戦研究の成果を踏まえるべきである。
 今回、一社の教科書は沖縄戦当時の県知事であった島田叡氏を取り上げた。
 島田氏については沖縄戦直前、住民の北部疎開や食糧確保に尽くしたとして戦後、顕彰されてきた。教科書では島田氏の言葉として「最後は手を上げてガマを出なさい。生きのびて、沖縄の再建のためにがんばるのだ。命は宝だ。生きぬけ」と記している。
 戦禍にあって島田氏は住民保護に力を注いだとされている。しかし、32軍の作戦遂行を支え、住民を鼓舞し、戦場に動員する任務を担った県政の責任を無視することはできない。軍隊と同様、行政も住民を守ることはできなかった。そのことも沖縄戦の教訓とすべきである。
 高校日本史教科書の「集団自決」に関する記述から日本軍の「強制・関与」が削除され、県民の反発を招いた2007年の教科書検定問題では、教科書検定の過程で沖縄戦専門家の見解を反映させるべきだとの指摘があった。必要な手続きであろう。
 沖縄戦の実相を伝えることは平和構築につながる。その理念を教科書編集や教科書検定に生かしてほしい。