<社説>県ヘイト条例成立 理念の具現化へ努力を


社会
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 差別的言動(ヘイトスピーチ)の防止を図る「県差別のない社会づくり条例」が、30日の県議会で成立した。外国人や性的少数者、そして沖縄県民であることを理由とした不当な差別を許さず、全ての人の人権が尊重される社会の実現をうたっている。

 条例の制定により、公共の場やインターネット上でのヘイトを許さないという県民の意思を明確に示した。条例の理念を具現化していく努力が重要だ。条例の周知やヘイトスピーチは許されないという啓発など、県には情報発信の取り組みが求められる。
 条例は前文で「特定の人種、国籍、出身等の本人の意思では変えることが難しい属性を理由とする不当な差別的言動、性的指向や性自認の多様性についての理解が十分ではないことに起因する偏見や不当な差別等」の解消に向けた取り組みを社会全体で推進していくことを明記し、「全ての人への不当な差別は許されない」と宣言する。
 条例案を可決した30日の県議会本会議では沖縄・自民党が反対し、全会一致にはならなかった。ただ、対象に「県民」を含めることに議論があることや、条文の定義のあいまいさといったことが反対の理由で、制定の趣旨自体に異論が出ているわけではない。
 国内では2016年にヘイトスピーチ解消法を定めている。だが、罰則規定のない理念法ということもあり、匿名性の高いネット上を中心に、侮蔑や憎悪をあおる表現は収まらない。21年8月には、在日コリアンの子孫らが多く暮らす京都府の「ウトロ地区」の家屋に、20代の男が火を放つ事件が起きた。一審判決は「在日韓国・朝鮮人への偏見や嫌悪感によるもの」と断じた。
 偏見や差別意識の蔓延(まんえん)を見過ごせば、「言葉の暴力」にとどまらず、実際に危害を加える「ヘイトクライム(憎悪犯罪)」を引き起こすことを認識しなければならない。
 ヘイトスピーチ解消法の施行後も、東京都や大阪市など一部の自治体で条例を制定し、独自の対策を導入する動きが出ていた。川崎市(神奈川県)は全国初の罰則付きの条例となっている。
 沖縄県の条例案づくりでは意見公募を経て、県民への差別的言動、いわゆる「沖縄ヘイト」についても対象とすることになったのが特徴的だ。成立した条例は罰則のない理念条例だが、ヘイトスピーチ抑止の実効性を持たせるには罰則規定が必要という意見もあった。
 県条例は外国人への差別的言動について、有識者で構成される審議会を経て事案や発言者の氏名を公表すると規定し、国の法律より踏み込むものとなった。一方、県民への差別的言動に関しては公表の仕組みを設けていない。
 条例は3年後をめどに検討を行う規定も盛り込んでいる。運用を進めながら、必要な見直しを講じていくことに取り組んでもらいたい。