<社説>防衛力強化で論戦 曖昧な説明は許されぬ


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 国会で6日から防衛力強化に必要な財源を確保する特別措置法案が審議入りする。7日には防衛産業の生産基盤を強化する法案も審議入りの見込みだ。防衛力強化を巡る論戦が本格化する。

 与野党に求めたいのは昨年12月に政府が閣議決定した国家安全保障戦略など安全保障3文書を徹底審議してほしいということだ。立憲民主党など野党は安保関連3文書と特措法案をセットで政府をただす姿勢だ。政府も明確に答えなければならない。
 敵基地攻撃能力(反撃能力)の保有を明記した安保関連3文書によって、専守防衛を基調とした日本の防衛政策は大きく転換した。ところが、政府は「国のかたち」を変える重大な決定であるのに、国政の場で曖昧な説明を重ねてきた。これでよいのか。
 岸田文雄首相は4日の衆院本会議で安保関連3文書に関して「非核三原則や専守防衛の堅持、平和国家としての歩みをいささかも変えるものではない」と述べている。この発言を額面通り受け取るわけにはいかない。
 この日の本会議で岸田首相は敵基地攻撃能力の行使事例について「個別、具体的に判断する」と明示を避けた。
 その中で「密接な関係にある他国への武力攻撃が発生した場合など武力行使3要件を満たす場合に行使しうる」と述べた。集団的自衛権を行使できる「存立危機事態」でも敵基地攻撃能力の発動は可能との考えを示したものだ。岸田首相は1月30日にも同趣旨の答弁をしている。
 この首相発言は専守防衛を逸脱したものと言わざるを得ない。憲法9条違反はおろか、国際法違反の先制攻撃と受け取られる恐れがある。
 「日本が攻撃を受けていない時に、相手国にミサイルを撃ち込むのは専守防衛なのか。一線を越える」(岡田克也立憲民主党幹事長)というような疑問や不安を多くの国民は抱いているであろう。
 政府は安保関連3文書に対する国民の疑問に向き合い、明確に答えるべきだ。「専守防衛の範囲内で」「憲法、国際法、国内法の範囲内で」という従来の答弁を繰り返すだけでは不十分だ。
 国会で敵基地攻撃能力の行使事例を問われた岸田首相は「手の内を明かすことになる」と説明を拒んだこともあった。このような姿勢では国民の理解を得られない。専守防衛を逸脱する安保関連3文書は撤回すべきだ。
 防衛費増額もそうだ。政府は2023年度から5年間の防衛費を総額43兆円程度に増額する方針だ。財源は税外収入などで捻出し、足りない部分は増税で確保する。防衛費増額を国民は受け入れるか疑問だ。少子化対策などを優先すべきではないか。
 今までのような曖昧な説明を重ねることは許されない。軍備増強の重い負担を強いられる沖縄から国会審議を注視する必要がある。