<社説>ジュゴンふん確認 国は工事止め調査始めよ


社会
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 新基地建設が進む大浦湾周辺の南西に位置する名護市久志の海岸で、国指定天然記念物のジュゴンのふんが見つかった。本島北部周辺海域の藻場11地点ではジュゴンの食(は)み跡が確認された。ふんは伊良部島沿岸部でも見つかっている。県の2022年度ジュゴン生息状況調査で判明した。

 久志でジュゴンのふんが見つかったのは昨年7月で、分析の結果、ジュゴンのDNAが検出された。県調査でジュゴンのDNAが検出されたのは初めてである。また、本島北部海域で確認された食み跡は、県が調査を始めた17年度以来最多である。
 本島北部海域や先島で今もジュゴンが生息していることが分かった。特に基地建設現場の近くでふんが見つかった事実は大きい。調査の結果を受け、玉城デニー知事はジュゴンの生息状況調査の拡充を沖縄防衛局に求めた。政府は県調査の結果を無視してはならない。工事を止め、調査を始めるべきだ。
 辺野古新基地建設を巡る県と政府の対立の中で、豊かな海の象徴であるジュゴンが常に焦点となってきた。
 環境省は2003年2月、名護市東海岸沖でジュゴンの成獣を確認したと発表した。12年には防衛局が辺野古沿岸海域でジュゴンの食み跡を確認している。ところが、その情報を公表しないまま防衛局は13年3月、辺野古の埋め立て承認を申請した。
 辺野古海域の藻場では18年12月に防衛局が土砂投入した以降、食み跡は確認されていない。しかし20年2月から3月にかけて、防衛局はジュゴンのものとみられる鳴き声が確認されたことを環境監視等委員会に報告した。玉城知事は工事停止を求めたが、受け入れられなかった。
 環境監視等委の一部委員は21年5月、沖縄のジュゴンが「2019年に絶滅」と記した論文を英科学誌に投稿。後に科学誌側の求めで「減少」などの表現に改めている。
 ジュゴン生息が明確にならないまま新基地工事が強行されてきた。しかし、今回の県調査によって工事現場付近にジュゴンがいることが分かったのだ。
 県自然保護課の担当者は「生息しているかは判断できないが、来遊や餌を食べるために藻場に近づいていることは間違いないと思う」と話している。日本自然保護協会主任の安部真理子氏は「一部では『絶滅している』と言われることもあったジュゴンの生息がきちんとした形で証明された」と指摘した。
 新基地建設が今後も続くことになれば大浦湾の環境はさらに悪化する恐れがある。玉城知事は小型機やヘリコプターを使用したジュゴン生息状況調査の回数増や久志沿岸域での水中録音機の設置、食み跡調査を防衛局に求めた。
 ジュゴンの生息について曖昧にしたまま工事を進めてはならない。政府は県の求めに正面から向き合うべきだ。