<社説>岸田首相襲撃 民主主義への暴挙許すな


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 民主主義の根幹である選挙を狙った暴挙が再び起きてしまった。

 衆院補欠選挙の応援のため、和歌山県を訪れていた岸田文雄首相に向け、筒状の物が投げ込まれ爆発した。現場にいた警察官1人が軽傷を負ったが、岸田首相や集まった聴衆にはけがはなかった。
 昨年7月には、安倍晋三元首相が奈良市での参院選の街頭演説中に銃撃され命を落とした。今回の事件も、暴力によって言論を萎縮させ封じようとする行為であり、決して許されない。
 容疑者は威力業務妨害容疑で現行犯逮捕されたが、「弁護士が来てからお話しします」と供述している。現時点ではその動機について明らかになっていない。
 安倍元首相銃撃事件で逮捕、起訴された男は、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)への恨みを募らせていた。安倍氏が旧統一教会とつながっていると思い、犯行に及んだと供述している。
 岸田首相を狙ったとみられる今回の襲撃事件も、安倍元首相の事件をきっかけに計画された可能性もある。衆院補選や全国の統一地方選の真っただ中に起きた事件は、選挙戦にも影響が出かねない。どのような目的であっても、暴力行為を正当化することはできない。連鎖的な犯行を生まないためにも動機の解明が急務だ。
 今回の事件では、筒状の爆発物が岸田首相の近くに投げ込まれた。直後に警護官(SP)らがそれを遠ざけ、首相を退避させた。爆発物はその後間もなくして爆発した。容疑者はもう1本も持ち込んでおり、一歩間違えば多くの犠牲を出した恐れもある。
 安倍元首相銃撃事件を受け、警察庁は昨年8月、新たに「警護要則」を制定した。警察庁の関与を深め、都道府県警が作成する警護計画を事前に審査してきたほか、SPの能力向上にも努めてきた。
 しかし、これらの取り組みがなされたにもかかわらず、事件を防ぐことができなかった。今回の事件では、岸田首相のそばに複数のSPがいたほか、何層にも警察官が配置されていたものの、手荷物検査は実施しておらず、爆発物の持ち込みを許した。
 政治家が有権者との触れ合いを重視する中、街頭演説会場での手荷物検査には困難も予想されよう。要人のみならず市民の安全を確保するためにも、さらなる警護体制や安全対策の徹底に不断に取り組む必要がある。
 5月には世界の首脳を招いく先進7カ国首脳会議(G7首脳広島サミット)が控えている。事件当日は、札幌市でのG7気候・エネルギー・環境相会合の初日、長野県での同外相会合開幕を翌日に控えたタイミングで起きた。
 要人を警護する場面も続く。各国とともにテロや暴力に屈せず、民主主義を守るためにも、事件の徹底究明、検証が求められる。