<社説>PAC3先島展開 規定逸脱の配備はやめよ


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 地対空誘道弾パトリオットPAC3の先島展開で混乱が広がっている。与那国町の祖納港では県の港湾使用許可の手続きをしないまま車両が陸揚げされた。与那国空港ではPAC3の関連機材を載せた輸送機が運用時間を外れて着陸した。

 今回のPAC3先島展開は北朝鮮の軍事偵察衛星発射に備えたものだ。浜田靖一防衛相が出した「破壊措置準備命令」を受け、宮古島、石垣、与那国にPAC3を配備する。与那国配備は初めてだ。
 政府や防衛省・自衛隊にとっては「緊急性」を帯びた配備であろう。しかし、所定の手続きを怠ってはならない。時間外の空港使用も極力避けるべきだ。そもそも破壊措置準備命令に基づく配備は軍事的緊張を高める恐れがある。
 県港湾課によると、祖納港への接岸と車両陸揚げは船を運航する民間事業者が事前に八重山土木事務所へ港湾使用を申請する必要があった。今回、その手続きがなされていなかった。自衛隊は本紙取材に対し「事業者に聞いてほしい」と回答した。
 港の安全を確保するためにも使用許可などの手続きを踏む必要がある。なぜ無許可のまま車両が陸揚げされたのか、責任の所在を明らかにする必要がある。自衛隊も責任の一端を担っている。事業者任せにしてはならない。
 航空輸送でも混乱が起きている。与那国空港には運用時間外の25日午後8時ごろ、C2輸送機が飛来した。県が例外的に時間外使用を認めた。
 自衛隊は、新石垣空港についても25日午前1時ごろの使用を県に打診していた。沖縄防衛局の担当者は県庁を訪ね、空港使用が円滑に進むよう協力を求めた。県は運用時間(午前8時~午後9時)を外れることから使用を断った。管制や空港管理に人を要するという理由だ。
 玉城デニー知事は県民の生命・財産の安全を確保する考えからPAC3配備に理解を示す。糸数健一与那国町長はPAC3配備に肯定的な考えを示し、港や空港の使用許可を速やかに出すよう県に促した。PAC3の与那国常駐配備も求めた。
 糸数町長の要望は町民の安全を重んじる立場から発したものであろう。しかし、必要な手続きや運用規定は順守されなければならない。問題は今回のような手続きや規定を逸脱した空港や港湾の使用が際限なく繰り返される可能性があることだ。
 政府が閣議決定した安保関連3文書を踏まえた日米安全保障協議委員会(2プラス2)は、自衛隊や米軍による空港・港湾の「柔軟な使用」を打ち出している。今回のPAC3先島展開はその実践という側面もあろう。政府側が言う「柔軟」は住民にとって「強制」になり得る。
 住民生活との軋轢(あつれき)を招くようなPAC3配備をはじめ軍備増強は受け入れるわけにはいかない。