<社説>憲法施行76年 拙速な改憲論議はやめよ


社会
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 日本国憲法は施行から76年を迎えた。国会では「改憲勢力」が国会発議に必要な3分の2以上の議席を確保し、改憲論議を加速させている。しかし、国民の機運は盛り上がらない。何のための改正か、改正を急ぐ必要があるのか。世論は割れている。

 共同通信が3月から4月にかけて実施した世論調査によると、多くの国民が改憲の必要性があるとしつつ、改憲の機運は高まっていないと感じている。国会での改憲論議を「急ぐ必要がある」が49%、「急ぐ必要はない」が48%で拮抗(きっこう)した。衆院憲法審査会の毎週開催が定着したが、機運上昇につながっていない。
 人口減や少子高齢化、気候変動、安全保障環境の不安定化などさまざまな情勢が変化している。これらの問題に対応するため憲法改正が必要だというのが、「改憲勢力」の基本姿勢だ。ただ、最高法規である憲法を改正しなければ諸課題に対処できないのか疑問だ。拙速な改正ありきの論議は許されない。
 衆参両院で国会発議に必要な議席を得たことを受け、岸田文雄首相は「できる限り早く発議に至る取り組みを進めていく」と述べ、自身の党総裁任期の来年9月までの改憲を目標に掲げている。
 自身の総裁任期と憲法改正を絡ませるような姿勢を国民は疑問視するのではないか。乱暴に時期を区切り、改憲の手続きを急ぐことがあってはならない。
 憲法改正を巡っては大規模災害や感染症のまん延などの緊急事態への対応、同性婚の是非、プライバシー権などさまざまな論点がある。憲法に対する国民の認識も多様化している。
 今回の調査でも72%が改憲の必要性を感じていると答えている。「憲法の条文が時代に合わない」「新たな権利や義務、規定を盛り込む必要がある」などが改憲を支持する理由である。しかし、大規模災害や感染症などの諸課題に対処するためには本当に改憲しなければならないのか。国民の間で理解が進んだとは言い切れない。
 改憲論議は常に9条を焦点としてきた。国会の「改憲勢力」はロシアのウクライナ侵攻などを挙げ、9条改正を訴える。自民党は「9条の2」を新設し、自衛隊明記を掲げている。
 それに対し、公明は「戦力の不保持」(9条2項)の例外規定と拡大解釈される可能性を指摘し、反対を表明した。9条改正については連立与党の足並みはそろっていない。
 いま一度確認したいのは戦争放棄を明記した憲法の平和主義の原点である。軍事力増強によって東アジアの不安定な安全保障環境に対処するよりも、憲法9条の精神にのっとった外交努力によって緊張緩和を追求することが日本のあるべき姿である。平和主義を貫くことが国際社会での名誉ある地位を占めることにつながる。