<社説>「統制要領」策定 海保の軍事化は許されぬ


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 「有事」を想定した軍事態勢の構築が急速に進んでいる。この危険な動きを看過することはできない。

 政府は、防衛相が有事の際、自衛隊法に基づき海上保安庁を指揮下に置く手順を定めた「統制要領」を決定した。「武力攻撃事態」において海保は住民避難や海上での捜索・救命などを担い、自衛隊を後方支援する。
 「統制要領」は自衛隊と海保の軍事的な一体化を推し進めるものだ。政府は海保の非軍事性に変更はなく、海保の自衛隊への編入や海保の準軍事化ではないと説明する。
 しかし、戦後70年余にわたり、「海の警察」として非軍事を貫いてきた海保が変容する可能性は否定できない。「武力攻撃事態」の下で政府が言う役割分担が維持できるのかも疑問だ。海保の軍事化を進めることは許されない。
 自衛隊法は「海上保安庁の全部または一部を防衛大臣の統制下に入れることができる」と定めているが、1954年の制定以来、具体的な取り決めはなかった。
 しかし近年、中国公船の動きが活発化し、「統制要領」策定の議論が進んだ。昨年末に閣議決定した国家安全保障戦略は「有事の際の防衛相による海上保安庁に対する統制を含め、自衛隊と海上保安庁との連携・協力を不断に強化する」とし、自衛隊と海保の連携方針を鮮明にした。
 尖閣諸島での対処を想定して昨年11月、長崎県五島列島の津多羅島で実施された陸上自衛隊の訓練には、沖縄県警の国境離島警備隊と共に第11管区海上保安本部が参加した。「尖閣有事」を念頭に、自衛隊と海保の一体運用は既に加速しているのである。
 一方、海上保安庁法25条は海保が軍隊として機能することを明確に禁じている。海保が警察組織であることを象徴する条文である。岸田文雄首相は同条の規定について、昨年11月の国会で「重要な規定であると認識をしている」と述べた上で、海上自衛隊と海保の連携強化は「長年積み残されていた課題」として「統制要領」にも言及した。
 このままでは海保の軍事化に歯止めをかけている条文が空文化してしまう。しかも、政府は閣議や国会に諮らず、自衛隊と海保による内部の申し合わせだけで「統制要領」を決定したのである。あまりにも拙速な意思決定ではないか。全容も公表されていない。
 「統制要領」は尖閣情勢を背景としたものだ。しかし、この海域で「住民避難」や「捜索・救命」の業務があるのか疑問が残る。自衛隊との一体的な行動によって海保が攻撃対象にもなりかねない。
 中国では2021年2月、中国海警局に武器の使用を認める「海警法」が施行され、海警局の「第2海軍」化が進んでいる。しかし、この動きに呼応して海保に軍機能を加えて自衛隊と一体化することは緊張感を高めるだけだ。冷静な対応を求めたい。