<社説>ジャニーズ社長謝罪 タブー許さず体質改めよ


社会
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 ジャニーズ事務所のジャニー喜多川前社長(2019年死去)による所属タレントの少年への性加害問題について、藤島ジュリー景子社長が謝罪する動画と質問に答えた文書を自社ホームページで発表した。問題が放置されてきた背景には、強い力を持つ事務所への追及をタブー視するメディア界の問題もあると指摘される。芸能界とメディア界の両方が、タブーを許さず人権を尊重するよう体質を改めるべきだ。

 3月に英BBCが元所属タレントらの証言を報じるドキュメンタリー番組を放映し、4月に元ジャニーズJr.の歌手カウアン・オカモトさんが日本外国特派員協会で会見して告発した。これに対し回答文は、告発を重く受け止めているとしつつ「当事者であるジャニー喜多川に確認できない中で、私どもの方から個別の告発内容について『事実』と認める、認めないと一言で言い切ることは容易ではない」と事実認定は避けた。
 そして、コンプライアンスの強化に努めているとした上で「本件でのヒアリングを望まない方々も対象となる可能性が大きい」などとして第三者委員会の設置を否定。外部の専門家による窓口を設置して、被害を訴えている人たちに誠実に向き合うと述べた。
 現在、性犯罪に関する刑法改正案が国会に提出されている。改正されれば性交の同意が可能な年齢が13歳から16歳に引き上げられ、経済的・社会的関係上の地位を用いた場合も「不同意性交罪」が適用される。さらに、わいせつ行為をするために子どもを手なずける「グルーミング」への適用も検討中だ。これらに該当する行為がどれくらいあったのか、あいまいに済ませることは許されない。
 業界全体の問題も改めて浮き彫りになった。「ジャニーズ一強」と言われるほどジャニーズ事務所のテレビ局などに対する力は強い。2019年には、事務所から独立したタレントを出演させないようテレビ局に圧力をかけたとして公正取引委員会が「注意」するという出来事もあった。報道にも忖度(そんたく)が働き、スキャンダルを報道しなかったり、扱いを小さくしたりしてきたと言われる。今回も、BBCが放送したことはほとんど伝えられず、カウアンさんの記者会見で大きく報じられた。
 1999年に「週刊文春」がジャニー喜多川社長(当時)の所属タレントへのわいせつ行為を報じたことに対し起こされた名誉毀損(きそん)訴訟で、「記事の主要部分は真実性がある」と認定され、2004年に確定した。カウアンさんは12~16年に被害を受けたと主張しており、訴訟後も続いていたことになる。訴訟を受けて徹底して取材・報道が行われるべきだったのではないか。
 これを機に、強い力を持つ者への追及をタブー視せず、弱い立場の人の人権を守る社会にしなければならない。