<社説>与那国ミサイル計画 配備ありきは不誠実だ


社会
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 「配備ありきだ」という憤りはもっともだ。防衛省は陸上自衛隊与那国駐屯地に中距離地対空ミサイルを配備する計画を住民に明らかにした。

 ミサイル配備によって与那国が標的になることへの不安を抱く住民は多い。なぜ沖縄なのかという疑問も根強い。このような不安や疑問に答えないまま政府は配備計画を強行しようとしている。不誠実な対応であり、ミサイル配備計画は撤回すべきだ。
 防衛省が与那国町で開催した住民説明会によると、相手のレーダーや通信を電磁波などによって無力化する電子戦の部隊などを2023年度中に配備するという。
 政府は地元への説明もないまま、2023年度予算に与那国駐屯地の拡張に関する費用を盛り込んだ。電子戦部隊の移駐を含め、町や議会に明らかにしたのは年明けの1月になってからだ。ミサイル配備に関し、生活への影響は最小限にするとしているが、説得力に欠けている。地元の不安に向き合わず、説明を先送りにしたのだから当然だ。
 安保関連3文書に基づく敵基地攻撃能力(反撃能力)の保有方針に沿って、政府は自衛隊の拡充、新設を進める。中国の脅威を念頭に置いた敵基地攻撃能力の保有や自衛隊施設の拡張であり、住民生活への影響は甚大だ。しかし、県民への説明は乏しい。
 玉城デニー知事は与那国島へのミサイル部隊配備について、県への説明が行われていないことに触れた上で敵基地攻撃能力について「憲法や国際法との整合性など、あまりに不透明、説明不足の部分が多岐にわたる」と述べた。
 敵基地攻撃能力を含む軍備強化は従来の専守防衛から逸脱し、平和国家の国是を変質させる。その是非に関する議論は圧倒的に足りない。
 そもそも、昨年5月、日米首脳会談で岸田文雄首相がバイデン大統領に防衛力強化と防衛費増額を約束。国会での議論を経ないまま、今年1月の会談で敵基地攻撃能力の保有などの方針を伝えた。
 国民不在の独断とも言える政策転換だった。その後の国会審議はどうか。防衛費増額のための財源確保特別措置法案が焦点だが、論議が深まらない。立憲民主、日本維新の会、共産、国民民主の野党4党が反対の方針だが、維新と国民民主は防衛費増額の政府方針には賛成だ。野党の足並みはそろっていない。
 世論は国会の状況とは異なる。共同通信が6日にまとめた世論調査で防衛増税を「支持する」は19%で「支持しない」が80%を占めている。この世論から政府、国政各党はかけ離れている。
 沖縄は「日本復帰」51年を軍事拠点化への懸念が渦巻く中で迎えた。基地の整理縮小に逆行する自衛隊施設の拡張が進められる。沖縄の負担に今こそ目をこらし、国会論戦を深めるべきだ。国民の理解が深まらないならば、防衛費増に踏み込むべきではない。