<社説>石垣住民投票訴訟 意思表明機会奪う判決だ


社会
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 地方自治を後退させた市議会判断を追認する不当な判決だ。要塞(ようさい)化が進む島の住民の声を押しつぶすものであり、到底認められない。

 陸上自衛隊配備計画の賛否を問う石垣市の住民投票を巡り、市民らが投票できる地位にあることの確認などを求める訴訟で、那覇地裁(福渡裕貴裁判長)は23日、住民側の訴えを却下した。
 那覇地裁が判決理由に持ち出したのは、住民投票の実施を規定する市自治基本条例の条文を議会が削除した事実だ。判決は「存在し得ない法律上の地位を確認の対象とするもので、判断するまでもない」と訴えを退けた。陸自配備による生活への影響を懸念する住民の意思表明の機会を奪うものではないか。地方自治を軽視するような判決だと言わざるを得ない。
 2009年12月、当時の石垣市議会は、住民投票が実施できることを盛り込んだ石垣市自治基本条例を賛成多数で可決した。県内初の条例可決として注目された。
 中山義隆市長は18年、「南西諸島圏域の防衛体制・防災体制の構築」を理由に、防衛省の配備要請を受け入れた。多くの住民が反対し、自衛隊配備の是非を問う住民投票が提起された。しかし、「国の専権事項で一地方の住民投票にはなじまない」として石垣市議会は住民が請求した投票条例案を否決した。
 さらに21年、市議会は市自治基本条例から住民投票に関する条文を削除した改正案を可決した。ゲーム途中でルールを改めるような行為であり、判決はそれを追認した。
 地裁判決は、条文削除前の住民側の当事者性も検討したが、「(地位の)確認の利益があるとは認められない」とした。住民側は「条文の削除前に請求した権利は消えない」と反論している。条文を削除したからといって、1万4263筆の署名に基づく住民の権利まで削られるのか。
 「国の専権事項は地方の住民投票になじまない」ことを理由に条文を削った市議会判断も厳しく問われよう。
 地域住民が国策に意思を表明することは地方自治の本旨にかなう。現に、石垣市議会の与野党は石垣島駐屯地への長距離ミサイル配備に対する反対意思や懸念を表明する意見書を可決した。島の将来を憂い意思を示すのは当然だ。それは自衛隊配備の是非を問う投票を求める地域住民も同じである。
 防衛省は南西諸島を「防衛の空白地域」と捉え、与那国島や宮古島などにも駐屯地を開設した。八重山は日本軍の命令で3647人の住民が犠牲となった「戦争マラリア」の体験がある。市民らは「軍隊は住民を守らない」という教訓に基づき、自衛隊配備への影響を懸念しているのだ。
 敵基地攻撃能力を有する基地は、有事の際は標的となる恐れがある。国防の最前線に置かれる住民らの訴えに司法は正面から向き合うべきだ。