<社説>少子化財源 社保料で 優先予算、抜本見直しを


社会
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 政府が少子化対策の財源確保策として、社会保険料の上乗せで国民1人当たり月500円程度の負担増を検討していることが判明した。2026年度にも公的医療保険の保険料とともに「支援金」として徴収を始める方向だ。企業の負担と合わせて約1兆円を捻出する。これを含む約3兆円の追加予算を目指す。

 一方で政府は防衛費を5年間で43兆円に大幅増額する方針だ。防衛費増額に向けた増税方針や、東日本大震災の復興財源を事実上転用することに国民の反発は大きい。
 その中での社会保険料の負担増である。現役世代や企業の負担が増えるため、労使双方から「賃上げの機運に水を差す」との反発がある。軍備増強ではなく平和外交で安全保障を図る政策に変更し、防衛費大幅増額や国民の負担の在り方を抜本的に見直して少子化財源の確保を最優先する施策に転換するべきだ。
 政府は24~26年度に取り組む「こども・子育て支援加速化プラン」を策定した。確保を目指す約3兆円のうち、児童手当の拡充など経済的支援に1.5兆円、保育サービスなどの拡充に0.8兆~0.9兆円を充てる内容だ。
 この約3兆円の財源について岸田文雄首相は今月、消費税を含めた新たな税負担は考えていないと述べた。社会保険料での予算捻出は国民の新たな負担増ではないか。現役世代の可処分所得を直撃する上に、社会保険料を従業員と折半している企業にも大きな負担となる。特に中小企業にとっては切実な問題だ。
 社会保険料は、買い物をするたびに税の存在を実感する消費税とは異なり給与から天引きする形が多いため、国民から見て負担感が小さいとの思惑が政府内にあるという。姑息(こそく)と言うほかない。
 先月末の共同通信世論調査によると、社会保険料増額に「反対」とした回答は56.3%で「賛成」の38.8%を上回った。年代別に見ると、「反対」は40~50代の中年層で最も高く、現役世代で、より抵抗感が強い傾向が示された。
 一方、先月実施された共同通信世論調査では、岸田首相が表明した防衛力強化のための増税方針について「支持する」はわずか19%で「支持しない」が80%を占めた。5年間の防衛費を従来の1.5倍超の43兆円に増やす方針は「適切ではない」が58%で「適切だ」の39%を上回っている。
 岸田首相や政府はこれら国民の声を真摯(しんし)に受け止めるべきだ。少子化のスピードは緩むどころか加速しており、待ったなしだ。22年には想定より11年も早く出生数が80万人を割った。コロナ禍での婚姻件数の激減もあり、危機的状況である。
 これまでの施策が少子化の歯止めに功を奏していない現状を踏まえ、防衛費も含めて優先すべき予算や国民の負担の在り方を抜本的に見直す時である。対策の実行にはスピードが求められる。