<社説>マイナンバーへの不安 立ち止まり出直すべきだ


社会
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 共同通信の世論調査で、70%がマイナンバーの活用拡大に不安を感じている。これだけトラブルが相次いでいるのだから当然だろう。参議院で審議中の、健康保険証をマイナンバーカードと一体化させるなどの関連法改正案は廃案にすべきだ。現在の強引で拙速な活用拡大政策は、マイナンバー法の任意の原則を無視し、憲法の平等原則も踏み外している。ここで立ち止まり出直さなければ、大きな禍根を残してしまう。

 マイナンバー保険証に別人の医療情報がひも付けられた事例は約7300件、公金受取口座の登録ミスが14自治体で20件など、トラブルが次々に明らかになった。今後、さらに増える可能性がある。本来なら、モデル自治体を設けるなど段階を踏んでシステムを作り、実害が出ない仕組みを目指すべきだった。

 マイナンバーは、国内に住む全ての人に付される生涯不変の12桁の個人識別番号だ。2017年度から21年度の5年間で約3万5千人分の情報が紛失・漏えいしたと報告されている。番号だけなら実害はないというが、医療情報や口座情報と一緒なら、プライバシー侵害や医療事故、犯罪被害につながりかねない。

 マイナンバーカードの申請率が3月末時点で76・3%に達した。21年度補正予算で1兆8千億円を投じるなど、最大2万円分を付与するポイント事業を展開したことも大きい。法の任意原則を踏みにじる税金の使い方ではないか。

 健康保険証との一体化は、事実上のカード取得義務化であり、任意原則に明確に反する。さらに、取得しない人には受診料が上乗せされ、負担が増え不平等が生じる。

 高齢者や心身に障害のある人にはより負担が重い。カードの管理はもとより、更新手続きができなければ無保険状態になってしまう。第三者に悪用される危険もある。

 医師でつくる全国保険医団体連合会(保団連)の、保険証と一体化したカードの調査で、医療機関の6割が「トラブルがあった」と答えた。その中には別人の医療情報を表示したケースが37件あった。保団連の住江憲勇会長は「医療情報の誤登録は重大事故につながる」として、運用停止と改正案の廃案を訴えた。

 取得率に応じて自治体への交付金に差をつけるのも大問題だ。岡山県備前市では、家族全員の取得を保育料や給食費免除の条件にする条例に反発が広がった。市長は財源が確保できたとして方針転換したが、住民は混乱した。行政サービスが不平等になれば憲法違反を問われるだろう。

 運用上、人為ミスは避けられず、事故や犯罪のリスクもゼロにはできない。危険性を踏まえた制度でなければならない。自分の情報がいつ誰に利用されているかを知ることができる「自己情報コントロール権」の保障も大前提だ。国民の不安を受け止め、丁寧に議論をすべきである。