<社説>北朝鮮「衛星」失敗 脅威あおるだけでよいか


社会
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 北朝鮮の「衛星」打ち上げは失敗に終わった。朝鮮中央通信は、ロケットが事故により朝鮮半島西側の黄海に墜落したと伝え、失敗を認めた。「可能な限り早期に2回目の発射を断行する」とも表明した。

 弾道ミサイルの技術を使用した人工衛星の打ち上げは、国連安全保障理事会決議に違反するものとして日本や米国、韓国は批判してきた。近隣諸国を不安に陥れる打ち上げ強行は残念である。北朝鮮が「2回目の発射」を意図していることについて抗議し、強く自制を求めたい。
 今回の北朝鮮による「軍事偵察衛星1号機」打ち上げの動きが明らかになったのは4月上旬である。同月19日には朝鮮労働党の金正恩総書記が発射の最終準備を急ぐよう指示したと北朝鮮メディアが伝えた。この動きを受け、浜田靖一防衛相は4月22日、「破壊措置準備命令」を発出し、宮古、八重山、与那国への地対空誘導弾パトリオット(PAC3)の展開を命じた。
 2012年と16年にも北朝鮮は「衛星」打ち上げとしてミサイルを発射した際、沖縄上空を通過し、県民を驚かせた。今回も31日の打ち上げまでの1カ月余、PAC3が配備された地域の住民生活に少なからぬ影響を与えた。
 軍事衛星打ち上げについて、北朝鮮は米韓に対抗するため「軍事偵察手段を獲得して運用することは最優先課題だ」(金総書記)などと説明している。いかなる事情があるにせよ、軍事的緊張を招くような行動は正当化できるものではなく、許されない。特に今年はハイペースでミサイル発射を実施している。国際社会を挑発するような行為は厳に慎むべきだ。
 一方、日本政府が国民に発するメッセージが「北朝鮮の脅威」に終始しているのも疑問だ。確かに北朝鮮の挑発的行動に多くの国民は強い不安を抱いている。しかし、脅威をあおるだけでは軍事的緊張を和らげることはできない。事態打開に向けた粘り強い外交努力が求められる。
 北朝鮮は29日未明、残骸の落下地点や打ち上げ時期を日本政府に直接知らせる異例の対応を取った。同じ日、北朝鮮の外務次官が、日本が拉致問題などで態度を変えれば「両国が会えない理由はない」と表明した。条件付きながら、ここ数年言及しなかった当局間対話に触れた。
 北朝鮮の真意は慎重に分析しなければならないが、この変化を捉え、対話の糸口を見いだす努力を重ねるべきであろう。その際、北朝鮮と深い関係にある中国との交渉が鍵となり得る。
 日本と韓国のシャトル外交再開も北朝鮮との関係打開の一要素として考えたい。日韓が北朝鮮との対話を促進させることは東アジアの安定にも寄与するはずである。
 脅威論一辺倒では日朝関係に前進はない。地道な対話努力が日本の安全につながる。