<社説>原発60年超過運転 事故の教訓忘れたのか


社会
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 東京電力福島第1原発事故の教訓を忘れてしまったのか。日本のエネルギー政策に対する不信感を抱かざるを得ない。

 原発の60年超過運転を可能とする束ね法「GX(グリーントランスフォーメーション)脱炭素電源法」が成立した。政府は原発事故後に「原則40年、最長60年」という運転期間の規定を設けたが、原子力規制委員会の再稼働審査で停止した期間などを計算から除外することで、60年を超える運転延長が可能となる。
 政府が掲げていた原発依存軽減から原発を活用する方向へとエネルギー政策は大きく転換される。福島第1原発事故による多大な被害を通じて得た教訓を軽視していないか。政策転換は受け入れることはできない。12年前の事故で原発の安全神話はもろくも崩れ去ったことを私たちは学んだはずである。
 原子力規制委は運転開始の30年後から最長10年ごとに劣化を確かめる。しかし、老朽化が進む原発の安全性を担保できるのか疑問が残る。海外には60年を超えて運転している原発はないのだ。事故の処理が終わらないまま、未知の領域に踏み出していいのか。
 政策転換の理由として政府はエネルギーの安定供給と脱炭素を挙げている。原子力基本法の改正で、原発活用による電力安定供給の確保や脱炭素社会の実現を「国の責務」と明記した。
 岸田文雄首相は昨年8月、ロシアのウクライナ侵攻によるエネルギー危機を受け、原発活用へ政策を改めた。しかし、エネルギー危機を名目とした政策転換を国民は受け入れるだろうか。原発の延命にこだわるような政府の政策を許さないはずである。
 脱炭素を理由としていることも理解に苦しむ。確かに地球温暖化の重大な被害を回避するため、日本を含む先進国はCO2削減に向けて主導的な役割を果たさなければならない。だからといって原発活用によって脱炭素を目指すというのは本末転倒だ。原発を稼働し続けるリスクは無視できない。
 福島第1原発事故は国際社会を震撼(しんかん)させた。この事故によってドイツは脱原発へかじを切った。脱炭素を名目に原発に回帰する日本を国際社会は厳しく見ているはずだ。
 原発事故を機に発足した原子力規制委の独立性にも課題を残した。原発の60年超運転を可能にする制度を委員5人のうち1人が反対したまま多数決で決めたのである。政治に左右されず、安全確保に特化した判断を求められる組織であるべき規制委が、原発回帰を急ぐ政府と歩調を合わせるように制度を決めたことに批判が上がっている。
 国民生活や経済活動の根本を支えるエネルギー政策だからこそ、国民的議論を重ねるべきだ。原発60年超過運転を認めるエネルギー政策は国民の合意を得ていない。原発回帰への暴走は許されない。