<社説>なぜPAC3展開か 生活犠牲の配備やめよ


社会
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 石垣市南(ぱい)ぬ浜町の新港地区で自衛隊の地対空誘導弾パトリオット(PAC3)の展開が続いている。駐屯地の外であり、周辺で港湾労働者らが働いているにもかかわらず、警備の自衛官が小銃を携行していた。軍事が日常に入り込み、生活を圧迫する事態は許されない。

 同地区に初めてPAC3が展開した2012年も、銃器携行に批判の声が上がった。自衛隊法95条の「武器等防護のための武器使用」が今回も適用されているのだろう。民間地での銃携行は、その銃口が住民に向けられる危険を伴う。「軍隊は住民を守らない」という沖縄戦の教訓を想起せざるを得ない。
 PAC3の展開は、北朝鮮の軍事偵察衛星打ち上げが近いとして浜田靖一防衛相が4月22日に発した「破壊措置準備命令」によって行われている。万が一、部品落下などがあればパトリオットで破壊するとされている。
 先月31日の打ち上げの6日前、5月25日には韓国が国産ロケットを打ち上げ、小型人工衛星8基の軌道投入に成功した。北朝鮮同様、南向けに発射し、沖縄の上空を通過した。韓国は22年にも打ち上げており、21年には軌道投入に失敗した。しかし、Jアラートも破壊措置準備命令も出なかった。今回、PAC3が台風を理由に石垣島では展開せず、宮古島と与那国島で発射機を畳んだままだったのも、自衛隊に発射するつもりがなかったからではないのか。
 そもそもPAC3で部品落下の被害を防げるのか疑問だ。射程は数十キロで範囲が限られる。破壊した場合の破片がより危険ではないのか。元1等空尉で軍事研究をする向井孝夫氏は、ロケット部品に命中してもドラム缶に穴を開けるようなもので破壊はできないと指摘している。
 共同通信の取材に、ある防衛省幹部は「北朝鮮による発射を奇貨とし、台湾有事を想定して部隊を動かせた」と本音を語った。別の幹部は「地元調整も含め、有事の際のスムーズな対応につなげる『地ならし』になった」と自賛した。先島でもPAC3の常駐化を狙っているのだろう。脅威をあおって要塞(ようさい)化を進めていると考えざるを得ない。
 今回のPAC3展開は、与那国町の祖納港で県の港湾使用許可を得ないまま車両が陸揚げされた。与那国空港では県はやむなく例外的に運用時間外の使用を認めた。地元の同意や手続きをないがしろにし、なし崩しで民間施設の軍事利用が進められている。
 北朝鮮の発射の日、県民への現実の脅威は台風2号だったが、テレビがJアラートを報じていた間、台風情報を得ることができなかった。また県民にとっては、米軍機などによる落下物などの方が日々そこにある危険だ。
 軍事による日常生活の圧迫が先島にも拡大しつつある。軍事優先の犠牲を受け入れることはできない。