<社説>マイナ口座登録ミス 問題直視し白紙に戻せ


社会
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 マイナンバーを巡るトラブルが止まらない。このままでは深刻な情報漏えいや不正使用が起きかねない。政府は問題を直視し、最初から出直すべきだ。

 マイナンバーと公的給付金の受取口座をひも付ける際、本人ではなく家族や同居人らの名義の口座を登録したとみられる事例が約13万件あったことが判明した。他人の口座が誤登録された可能性が高い事案も748件確認された。
 7日会見した河野太郎デジタル相は「安心して公金受取口座の登録をしてもらい、迅速かつ確実な給付ができるよう信頼の確保に取り組む」と強調した。
 ここまでトラブルが続いてしまっては国民の信頼を得ることは困難である。河野デジタル相は「日本だけデジタル化に背を向けることはできない」とも語るが、普及を強引に進める態度がトラブルにつながっていないか。
 全国の中核市で構成する中核市市長会の木幡浩会長(福島市長)はマイナンバーカードを巡るトラブル多発に関して、国がカード取得率上昇のために性急に普及策を進めたと指摘し、「(自治体の現場などで)無理がたたってミスが出ているのが実態だ」と述べた。自治体は負担を強いられたのだ。政府はこの指摘を重く受け止めるべきだ。
 トラブルはほかにもある。マイナンバーカードと一体化したマイナ保険証では、別人の情報とひも付けた事例が7300件判明している。証明書のコンビニ交付サービスでは、他人の住民票などを誤って発行する事案もあった。
 しかも、これらのトラブルの公表が遅れた事例もある。トラブルを伏せたままマイナンバーカードの普及を進めることはあってはならない。
 健康保険証を来秋に廃止してマイナンバーカードに一体化するマイナンバー法など改正関連法が2日に参院本会議で可決、成立したが、健康保険証との一体化は、事実上のカード取得義務化だ。
 マイナンバーカードを取得しない場合は受診料が上乗せされ、負担が増える。任意や平等といった法の下で保障されるべき原則が踏みにじられている。保険証の廃止は見送るべきだ。
 預金口座とマイナンバーをひも付ける登録制度は、公的給付金の迅速給付を目的に進められている。確かに、煩雑な手続をせずに必要な給付を受けられる側面もあるだろう。デジタル先進国並みに行政サービスを効率化できることへの期待もある。
 しかし、医療情報や口座情報とひも付けられた番号がいったん流出してしまうと、プライバシー侵害や医療事故、犯罪被害につながりかねない。この制度に重大な欠陥があるのではないか。
 制度への信頼は失墜している。強引に進めれば政治不信がさらに募るだけだ。廃止を含め、いったん白紙に戻して徹底的に議論すべきだ。