<社説>改正入管法成立 人道に反する改悪撤回を


社会
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 入管施設の長期収容解消を目的に難民申請中の強制送還停止を原則2回に制限する改正入管難民法が成立した。現行法では申請中は送還を何度でも停止できた。本国で迫害を受ける可能性がある人を帰せば、命を危険にさらす恐れがある。人道に反する改悪だ。

 日本の難民認定率は欧米に比べ極端に低く、手続きも不透明だ。国際基準と照らし、難民認定を審査する第三者機関設置や、収容に裁判所判断を必要とすることなどを導入すべきだ。改悪撤回を求める。
 背景には難民申請の急増がある。2017年に過去最多の約2万件に上った。入管当局は送還逃れや就労目的で虚偽申請が横行しているとみて、18年に就労許可を厳格化し、送還停止の制限へかじを切った。入管庁幹部は「本当に保護が必要な外国人は救っている」と言うが、日本の年間難民認定率は海外と比べて極めて低く、説得力に欠く。
 法案に対し専門家は「無辜(むこ)の人に間接的に死刑執行ボタンを押すに等しい」と警告。作家の中島京子さんは「うそつきを追い出すためなら難民が死んでもかまわない、という態度を国際社会は取らない」と述べた。実際、国連の特別報告者は国際人権基準を下回るとし徹底的見直しを求めた。
 根幹には、入国させたくない外国人排除を狙う出入国管理と、保護の理念に立脚する難民認定を、入管庁が一手に所管している問題がある。難民保護を後退させる元凶だ。
 難民審査のずさんさがそれを物語る。国会審議では入管当局が特定の参与員に審査を集中的に振り分けた実態が判明、認定判断の恣意(しい)性が疑われた。今年3月には、大阪地裁が同性愛者への迫害を理由に、ウガンダ国籍の女性を難民と認めるよう国に命令する判決を下した。女性は不服申し立て過程で、参与員の対面で事情を聴かれないまま、書面審査だけで不認定とされていた。全国難民弁護団連絡会議によると、難民不認定処分の取り消しを求めた訴訟で、裁判所が入管の判断を覆した訴訟判決は50件以上に上る。
 人権軽視は収容にも表れている。裁判などの手続きなしでの長期収容は「恣意的拘禁」として拷問禁止条約に抵触する恐れがある。今回改正で政府は長期収容を防ぐため、支援者ら監理人の下で社会生活を認める「監理措置」を設けたと主張する。しかし収容か監理措置かの選択が入管の判断に委ねられる上、監理人が支援の立場と相いれない役割を強いられる可能性がある。
 21年にはスリランカ人女性が名古屋入管で死亡した。これを受け政府は医療体制強化が法改正の前提とし「常勤医師の確保など、改革の効果が着実に表れている」と国会で答弁した。だがその時点で大阪入管の常勤医師は診察に従事しておらず、その後常勤医師が酒に酔った状態で収容中の外国人を診察した疑いも発覚した。こうした問題だらけの中で法改悪は許されない。