<社説>自衛隊候補生乱射 組織統制、隊員指導見直せ


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 岐阜市にある陸上自衛隊の日野基本射撃場で、18歳の自衛官候補生が小銃を発射し、隊員2人が死亡した。「上官にられた」と供述しているという。武器を扱う組織として決してあってはならない事件だ。県内の自衛隊射撃場の訓練も改めて見直し、安全管理を徹底すべきだ。

 事件を受け、陸自トップの森下泰臣陸上幕僚長が会見し「国民の皆さまに大変ご迷惑、ご心配をお掛けし、申し訳ありません」と陳謝した。調査委員会を立ち上げるとしたが、2人の人命が失われる事態を未然に防ぐことはできなかったのか。死亡した52歳の教官を標的にしたという供述も報じられている。入隊させるべき人物だったのか、自衛官採用の在り方を調査する必要がある。
 自衛隊は専守防衛という原則を根拠に武器の所持が認められてきた。実射訓練は殺傷能力の高い小銃を扱う危険な訓練である。武器を扱う以上、組織統制は厳格でなければならない。
 今回の事態は自衛隊の組織統制に対する国民の不信を招いた。自衛隊組織に歪(ひず)みや緩みはないか徹底的に検証し、悪弊があれば、ただちに改める必要がある。
 同時に行き過ぎた隊員指導が起きないよう配慮すべきだ。近年、自衛隊内のパワーハラスメントやセクハラが問題となり訴訟も起きている。自衛官の指導の在り方も見直す必要がある。暴力の連鎖は絶たなければならない。
 銃乱射事件も初めてではない。1984年2月に山口県の陸上自衛隊山口駐屯地山口射撃場で、射撃訓練中の2等陸士の男が発砲し、4人の死傷者が出た。当時の教訓はどの程度生かされていたのか。
 県内にも自衛隊の射撃訓練場がある。2009年に沖縄市の旧米軍東恩納弾薬庫地区の跡地に射撃訓練場が整備され、現役の自衛官や候補生たちの訓練が実施されてきた。
 自衛官による乱射事件は発生していないが、県内でも米軍で危機的な事案があった。14年10月、北谷町のキャンプ桑江で、ライフル銃を所持した海兵隊員が自宅内に立てこもった。別の基地からライフルを持ち出して民間地を移動しており、県民が巻き込まれる恐れもあった。
 復帰後、県内の自衛隊施設は166.1ヘクタールから、2021年には779.8ヘクタールと4.6倍に拡大した。さらに近年は南西地域への自衛隊配備強化が進み、与那国島や宮古島、石垣島に陸自駐屯地が開設されている。
 規律で統制されるべき自衛隊で乱射事件があっては近隣住民は安心して生活することができない。岸田政権は敵基地攻撃能力の保有などを明記した安保関連3文書を閣議決定し、日本を「戦争ができる国」へと変えた。自衛隊が武力を制御できなければ近隣住民の生命を危機に陥れる。徹底した原因究明と再発防止策を急いで講じるべきだ。