<社説>辺野古土砂仮置き 無謀な既成事実づくりだ


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 既成事実の積み上げに他ならない。名護市辺野古の新基地建設で、沖縄防衛局が大浦湾側の埋め立てに使う土砂を辺野古側の埋め立て区域に仮置きする計画を立てていることが明らかになった。県の承認を得ていない工事の準備を進めるのは無謀であり、到底容認できない。

 埋め立て予定海域の大浦湾側には「マヨネーズ並み」とされる軟弱な地盤が確認されている。この軟弱地盤の改良工事に関する防衛省の報告書では、大規模地震を想定した耐震性が検討されていない。
 国土交通省の空港の耐震設計に関する基準では、耐用年数中に起こる可能性のある震度4程度の中規模程度の地震を「レベル1」、東日本大震災級の最大規模の揺れを「レベル2」と規定する。辺野古新基地で防衛省は「レベル1」を採用し、検討した。
 安全保障上欠かせない重要な基地であるならば、最高レベルの耐震性を求めるはずだ。だが、防衛省は中程度の地震しか想定していないのである。辺野古新基地を必要不可欠な重要施設と見なしていないことの証左ではないか。
 共同通信が情報公開請求で入手した文書によると、埋め立てを始める3年前の2015年、防衛省は地質調査の業者から地盤の問題や沈下の懸念を伝える報告を受けた。だが防衛局は事実を伏せたまま着工し、問題の把握から4年後の19年になってようやく軟弱地盤の存在を認めた。
 軟弱地盤に対応するため、沖縄防衛局は当初の2・7倍の9300億円に総工費を修正したが、大規模な地盤改良が必要となる工事がその範囲で収まるかも不透明だ。状況によっては工費がさらに増す可能性もある。
 県は独自の試算で約2兆5500億円の総工費を見込んでいる。軟弱地盤と耐震設計の問題が解決していない中、膨大な税金を費やす合理性はなく、強行は許されない。
 土砂の調達先も問題だ。防衛局は地盤を固めるために必要な土砂量を当初の6・7倍に修正した。石垣、宮古島を含む7地区9市町村に調達先を拡大したが、県内で調達可能とする量のうち7割超が沖縄戦の激戦地だった本島南部(糸満市・八重瀬町)に集中している。戦没者の遺骨が混じる可能性がある土砂で新基地を造るのは道義に反する。
 設計変更を巡る県と国の対立が長引いている。大浦湾の埋め立てにすぐ着手できなくても、国は土砂の搬入作業の継続によって「進展」をアピールする狙いもあるだろう。当初の埋め立て申請では、辺野古側埋め立て区域を土砂の仮置き場として活用することを想定していない。行政手続きを軽視するものだ。
 辺野古新基地建設は、全国の米軍専用施設の約7割が集中する沖縄にさらに負担を押しつける計画であることを忘れてはならない。国は不誠実な対応を改め、工事そのものを中止すべきだ。