<社説>慰霊の日平和宣言 外交と対話で平和築け


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 沖縄が求める平和構築を脅かすような国内外の動きに対する危機感を表明し、それを克服するための方策を提示した。基本姿勢は平和外交と対話である。

 沖縄戦から78年の「慰霊の日」となった23日、糸満市摩文仁で沖縄全戦没者追悼式が行われた。
 玉城デニー知事は「あらゆる戦争を憎み、二度と沖縄を戦場にしてはならないと、決意を新たにする」とする平和宣言を発表した。南西諸島における軍事力強化が進む中、軍事力ではなく、平和外交や対話による解決を求めた。
 今回の「平和宣言」の特徴は昨年12月に閣議決定された「国家安全保障戦略」など安保関連3文書に対する懸念を表明した点である。「沖縄における防衛力強化に関連する記述が多数見られることなど、苛烈な地上戦の記憶と相まって、県民の間に大きな不安を生じさせており、対話による平和外交が求められている」と述べている。
 玉城知事は2021年12月、岸田文雄首相の敵基地攻撃能力保有を示唆した所信表明に対し、県議会で県内配備「断固反対」を言明している。敵基地攻撃能力(反撃能力)を有するミサイルの沖縄配備に反対する要請書を政府に提出した。
 安保3文書に基づく防衛力強化は地域の緊張を招くものであり、「軍隊は住民を守らない」という沖縄戦の教訓にも反する。「平和宣言」に安保関連3文書に対する厳しい見解を盛り込んだのは、これまでの経緯から見ても当然と言える。県民の平和志向にも沿うものであろう。
 戦没者追悼式に出席した岸田首相は式典あいさつで「今、わが国を取り巻く安全保障環境は、戦後最も厳しく、複雑な状況にある」という認識を示した。その上で「世界の誰もが平和で心豊かに暮らせる世の中を実現するため、これまでの歩みを貫き、不断の努力を重ねていく」と述べた。
 首相あいさつから伝わる政府の意図と「平和宣言」に込められた県民の思いとの間には大きな開きがある。政府は抑止力の向上で地域安定を追求しているのに対し、沖縄は対話と相互理解による緊張緩和を求めているのである。
 「平和宣言」は「アジア太平洋地域における関係国等による平和的な外交と対話による緊張緩和と信頼醸成、そしてそれを支える県民・国民の理解と行動が、これまで以上に必要になっている」と呼び掛けた。
 同時に、県独自の地域外交による平和構築への貢献に努める姿勢を示した。平和外交の展開は大国のはざまにあって交易を通じて国を維持してきた琉球・沖縄の歩みにも合致する。
 沖縄戦から78年を経て、平和を希求する「沖縄のこころ」は厳しい局面を迎えている。悲惨な体験を踏まえ、対話と相互理解を通じた平和構築を目指していきたい。