<社説>琉球石灰岩陣地検証 軍民混在戦の想定やめよ


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 沖縄を再び戦場にするつもりなのか。地上戦やミサイル攻撃を想定し、沖縄の島々を自衛隊陣地で固めて「不沈空母」にするような危険な動きである。到底受け入れるわけにはいかない。

 南西諸島の有事に備え、陸上自衛隊が陣地構築などを視野に、県内に広く分布する琉球石灰岩の掘削方法の検証を進めている。「台湾有事」を想定し、南西諸島の防衛力を強化する「南西シフト」と軌を一にした動きであろう。既に今年3月、大分県の日(ひ)出生(じゅう)台(だい)演習場で琉球石灰岩の爆破検証を実施している。
 陸上自衛隊がこのような検証作業に取り組んでいる事実にあぜんとする。沖縄の地形や地質を生かした陣地構築は沖縄戦時に日本軍が実行した。住民が暮らす民間地にも陣地を造ったことで軍民混在の状態が生じ、住民に犠牲を強いた。自衛隊は同じ過ちを犯すつもりなのか。
 沖縄戦に詳しい元沖縄国際大教授の吉浜忍氏(沖縄近現代史)は「他国からのミサイルなどの攻撃を想定し、琉球石灰岩のような硬い地層での陣地構築を検討しているのだろう。歴史は繰り返すという思いがある」と指摘する。
 沖縄戦体験を通じて県民は「軍隊は住民を守らない」という教訓を得た。一方で自衛隊は沖縄に洞窟陣地を設け、圧倒的物量に勝る米軍を相手にした日本軍の抗戦に学ぼうとしているのである。
 沖縄戦で日本軍は琉球石灰岩に生まれたガマ(自然壕)を陣地として活用した。さらに琉球石灰岩などを掘削し、大規模な陣地を構築した。首里城地下に築かれた第32軍司令部壕や豊見城市の海軍壕などである。壕構築には住民や旧制中学生が動員された。
 沖縄戦で、本土決戦準備のための「戦略持久戦」を主導した第32軍の八原博通高級参謀は洞窟を使った陣地構築を提唱した。戦後の著書「沖縄決戦―高級参謀の手記」(1972年刊)で、巨大な科学的戦力を誇る米国を相手に「我々は沖縄島という巨大な不沈戦艦がある」として、沖縄の「自然力」を生かした洞窟主体の陣地構築を推進したことを回想している。ここに県民保護の視点はない。
 ガマや岩盤を掘って構築した洞窟陣地を拠点に展開された戦略持久戦は、軍民が混在する戦場を生み出し、多くの住民に犠牲を強いたのである。陸上自衛隊のみならず政府、防衛省はこの事実にこそ学ぶべきなのだ。敗戦から78年を経て、新たな陣地構築のために琉球石灰岩の掘削方法を学ぶことは沖縄戦の歴史と教訓に反している。
 沖縄戦で住民は日米両軍の戦闘を避けてガマに身を隠し、命を守った。ところが日本軍はガマを強奪し、住民を追い出した。「集団自決」(強制集団死)の現場にもなった。沖縄戦の悲劇とガマは深い関わりを持つ。その体験をないがしろにするような動きを許すわけにはいかない。