<社説>米のクラスター弾供与 非人道兵器の応酬止めよ


社会
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 ロシアの侵攻を受けるウクライナへの支援で、米国が殺傷能力の高いクラスター(集束)弾の供与を決めた。クラスター弾は非人道的だとしてオスロ条約で使用や製造を禁じられているが、米ロ、ウクライナは条約に未加盟だ。非人道兵器の使用拡大は、戦争をさらに長期化させ、軍民ともに犠牲者が増える。殺りくの応酬を止め、戦闘を止める努力が必要だ。

 クラスター弾は、1発の親爆弾の中に数個から数百個の子爆弾が詰められ、空中で子爆弾をまき散らすことで広範囲を無差別に攻撃する。第2次大戦以後、ほとんどの戦争、紛争で使用されてきた。
 特に不発弾によって民間人の被害が長く続く。ベトナム戦争で戦場になったラオスでは、50年以上たつ今も、毎年多数の死傷者が出ている。オスロ条約が2008年に発効し、現在日本を含む110カ国超が参加している。
 ウクライナでは、ロシアが侵攻当初から民間地域で無差別攻撃に使用したとして非難されてきた。人権団体などによるとウクライナ側も使用している。昨年12月、ウクライナが米国に供与を要請したが米政権は応じなかった。
 しかし、今年6月からのウクライナの反転攻勢が弾薬の枯渇などで難航する中、ロシア軍の塹壕(ざんごう)への攻撃に有効だとして、方針を転換した。米政権はウクライナが民間の被害を最小化すると確約したとし、不発弾発生率がロシアの30~40%に対し2.5%以下でリスクは小さいと主張している。
 米の供与決定に対し北大西洋条約機構(NATO)内のオスロ条約加盟国から反対表明が続いている。英国、イタリア、スペイン、カナダの首相や国防相らが反対の姿勢を示した。ドイツは外相が反対を表明し、報道官が「米国が軽々しく決めたのではないと確信している」と一定の理解を示した。日本は、松野博一官房長官が「(米とウクライナの)2国間のやりとりであり、コメントを差し控える」として反対しなかった。
 官房長官は「多くの国が条約を締結することが重要との考えの下、引き続き非締約国に働きかけを行っていく」とも述べたが、条約には非加盟国に使用させないよう最善の努力を払う義務も定められている。ロシア、米国、ウクライナに働きかけ、条約上の義務を果たすことが日本のなすべきことではないか。
 ウクライナ侵攻を巡って、ロシアは核兵器使用をほのめかし、ロシアが占拠するザポリージャ原発の破壊も懸念されている。今重要なことは、ロシアに無差別攻撃や戦争犯罪に問われる行為をやめさせることだ。そして、両者に非人道兵器を使用しないよう働きかけなければならない。そうしなければ、戦争はさらに長引き、犠牲者が増え、ウクライナの荒廃が進む。国際社会が協調して一日も早い停戦を目指すべきだ。