<社説>少年事件記録廃棄 保存ルールを明確にせよ


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 全国各地の家庭裁判所(家裁)で重大少年事件の記録が廃棄されていた問題で、県内でも記録の廃棄が明らかになった。極めて残念だと言わざるを得ない。

 事件の背景や加害者の心理状況を検証することは事件の再発防止を図る上で不可欠であり、事件記録は重要な手がかりとなる。安易に廃棄されることがあってはならない。裁判所任せではなく、専門家など第三者を交えた保存ルールを明確にすべきだ。
 記録がほぼ廃棄されていたのは、2002年11月に沖縄市、03年6月に北谷町、09年11月にうるま市で起きた集団暴行死の3事件である。1992年から2000年の間に起きた集団暴行死3事件、暴行死1事件の記録について、那覇家裁は廃棄されたかどうかは不明としている。
 いずれも県民に強い衝撃を与えた事件である。家裁は事件記録の取り扱いや廃棄の経緯などについて調査し、公表してほしい。
 最高裁は家裁が扱う少年保護事件について、少年が26歳になるまで保存するよう定めている。その上で史料的価値の高い事件記録は26歳以降も「特別保存」とすることになっている。
 ところが県内で発生した事件のうち、事実上の永久保存に当たる特別保存と判断された事件は1件もなかった。廃棄によって事件の背景や動機などの検証ができなくなってしまった。
 最高裁が1992年に通達で示した特別保存の対象は「全国的に社会の耳目を集めた」「少年事件に関する調査研究の参考資料になる」などである。特別保存とするか否かの判断は各家裁に委ねられている。
 県内の事件は、全国的に報道されることは少なかったが、再発防止と子どもたちの安全、健全育成を考える上で十分に検証されるべき事件であることに変わりはない。
 公共の財産ともいえる記録の保存は慎重に検討されるべきだ。「保管場所がない」などの理由で事務的に廃棄してはならない。資料的価値を再認識すべきである。「なぜ殺されなければならなかったのか」という遺族の疑問が闇に葬られる可能性もある。
 裁判資料は一つの事件でも膨大で、保存場所の確保はかねて懸案になっていた。だが米国やシンガポールなど海外では裁判記録をデジタル化して保存している国もある。デジタルの時代において「保管場所がない」との言い分で貴重な資料を廃棄し続けることは、その価値を軽視していることにほかならない。
 日本は国会、内閣、裁判所の三つの独立した機関同士が均衡を保つことで権力の乱用を防ぎ、国民の権利と自由を保障する「三権分立」の国家だ。国家権力の一つである裁判所の判断の記録が「廃棄ありき」であってはならない。
保存基準を明確に定め、必要記録は後世に継承すべきだ。