<社説>ダイハツ不正問題 安全性軽視は許されない


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<社説>ダイハツ不正問題 安全性軽視は許されない
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 ダイハツ工業が車の衝突試験で不正をしていた問題で、現在生産しているほぼ全てにわたる車種で不正が行われていたことが分かった。同社は国内外全ての車種の出荷を停止した。

 不正が行われた期間は34年にも及ぶ。自動車生産において安全性の軽視は許されるものではない。長年にわたり利用者を裏切り続けたことを深く反省し、信頼回復に向けて全力を挙げなければならない。不正行為を生んだ社内風土の抜本的な是正が必要だ。親会社であるトヨタも責任を負うべきである。
 ダイハツ工業が内部通報を受けて調べた結果、海外向け4車種の衝突試験を巡る認証手続きで不正行為があったことが分かった。同社が5月に設置した第三者委員会の調査で、不正があったのは64車種(開発中、生産終了車を含む)に広がった。
 全車種出荷停止の影響は甚大だ。全国の販売窓口や関連会社、取引企業は危機に直面していよう。ダイハツは対応を急ぐ必要がある。
 不正の内容は、衝突時に作動するエアバッグに関するものやタイヤ空気圧のデータに関することなど多岐にわたる。いずれも安全性に深く関わるものだ。不正があった車の中にはトヨタや他社ブランドで販売していた車両も含まれていた。不正行為は、古くは1989年にまでさかのぼり、2014年以降に不正が多発する傾向にあった。
 運転者や同乗者の生命に関わる不正が長年、生産現場で横行していた。第三者委員会の報告書は「不正行為に関与した担当者は、やむにやまれぬ状況に追い込まれて不正行為に及んだごく普通の従業員である」と指摘する。
 不正行為をした従業員が置かれていた環境について(1)過度にタイトで硬直的な開発スケジュールによる極度のプレッシャー(2)現場任せで管理職が関与しない態勢(3)チェック体制が構築されていないブラックボックス化した職場環境(4)法規適合性についての不十分な理解(5)現場担当者のコンプライアンス意識の希薄化―などと列挙した。
 なぜ、このような状況に陥ったのか。報告書は現場と管理職の縦方向の乖離(かいり)や部署間の横の連携やコミュニケーションの不足、全体的な人員不足によって従業員に余裕がないことを指摘した。この企業風土を改めることなくしてダイハツの信頼回復はない。
 今回の問題でダイハツの奧平総一郎社長と共に記者会見したトヨタの中嶋裕樹副社長は「(トヨタへの)供給車が増えたことが現場の負担を大きくした可能性がある。深く反省している」と述べた。トヨタグループ全体で責任を持って不正行為の一掃に取り組む必要がある。
 ダイハツの苦境は人手不足や厳しい労働環境に帰因する。これは日本のものづくりの現場に共通する課題であることを忘れてはならない。