<社説>知事代執行判決従わず 政府は対話に転換せよ


社会
<社説>知事代執行判決従わず 政府は対話に転換せよ
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 玉城デニー知事は、「代執行訴訟」で辺野古新基地建設の設計変更への承認を命じた福岡高裁那覇支部の判決に従わないことを表明した。厳しい決断の連続に耐え、沖縄の民意尊重を貫いた知事の決断を支持する。

 斉藤鉄夫国土交通相は28日にも承認を代執行する方向で調整しているという。工事は年明けから始まるとみられている。史上初の代執行をすれば、強権発動で地方自治を押しつぶしたとして、岸田文雄内閣は斉藤国交相の名前とともに、歴史に汚点を残すことになる。対話と再考へと転換する最後の機会だ。政府は代執行を見送るべきである。
 玉城知事は行政官として判決に従うか、政治家として民意に従うか、厳しい選択を迫られ続けた。心身への負担は相当なものであろう。1995~96年に当時の地方自治法による「職務執行命令訴訟」(代理署名訴訟)で被告とされた大田昌秀知事、2015~16年に同様に代執行訴訟(和解で終結)を起こされた翁長雄志知事も同じだったはずだ。しかし、3度の国の強権を経ても、民意の底流は変わっていない。
 20日の福岡高裁那覇支部判決は「県民の心情は十分に理解できる」としながら、他の訴訟で県敗訴が確定しているとの狭い法律論で、知事の主張を退けた。その上で「付言」として「対話による解決が望まれる」とした。政府には代執行をしないという選択肢がある。この「付言」を、20年以上曲折を経てきた問題の解決の契機にすべきだ。
 大浦湾は、ジュゴンなど262種の絶滅危惧種を含む5300種以上の生物が生息する貴重な海だ。埋め立てれば、それは永遠に失われる。観光資源としても活用できず、軍事基地として沖縄の経済発展を永久に阻害する。
 最大で海面から90メートルもの深さがある軟弱地盤の改良工事は、約66・2ヘクタールに約7万1千本もの砂ぐいを打ち込むという。9・3平方メートルに1本の計算で、海底の深くまで砂ぐいで埋め尽くされることになる。しかも沖縄は台風常襲地だ。一体何年かかるのか。工費はどこまで膨らむのか。その間、普天間飛行場の危険性は除去されない。
 新基地が完成したとしても地震や台風に耐えられるだろうか。さらに、完成後に米軍が普天間飛行場を返還しない可能性も指摘されてきた。11月に在沖米軍幹部がそれを裏付ける本音を語り、波紋が広がっている。
 新基地計画が不合理と欺瞞(ぎまん)に満ちていることを、国民の多くは知っている。20日の判決を全国紙、地方紙の多くが社説で批判し、辺野古新基地を「唯一の選択肢」とすることの再考と、沖縄県と対話をすることを、国に求めた。パーティー券による裏金問題で危機にある政権がこのまま沖縄を踏みにじれば、戦後最悪の政権として歴史に刻まれることになろう。