<社説>代執行訴訟上告 地方自治の本旨訴えよ


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<社説>代執行訴訟上告 地方自治の本旨訴えよ
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 地方自治を根底から覆す国家意思を看過するわけにはいかない。堂々と沖縄の主張、地方自治の本旨を訴えてほしい。

 米軍普天間飛行場の返還に伴う新基地建設を巡る代執行訴訟で、福岡高裁那覇支部から軟弱地盤改良の設計変更申請の承認を命じられた玉城デニー知事は判決を不服とし、最高裁に上告した。
 沖縄の民意を顧みることなく、国が主張する「公益性」を最大限認めた高裁判決をそのまま受け入れることはできない。県が上告を決断したのは当然である。最高裁は沖縄の声に真摯(しんし)に向き合い、実質審理に徹するべきである。
 玉城知事は「地方分権改革の趣旨や地方自治の本旨、多くの県民の民意という真の公益を顧みなかった」と高裁判決を批判し、「判決の問題点を明らかにし、県民の願いを訴えることで原判決の破棄を求める」と言明した。
 高裁判決の最大の問題点は、沖縄の地方自治が全面的に否定されたことである。
 裁判は設計変更申請を承認しない県に代わり、地方自治法に基づき国が代執行に踏み切るための3要件(県の法令違反、代執行以外の方法、県不承認による公益侵害)を争点とした。判決は国の主張を全面的に認めた。
 判決は、県の不承認は「社会公共の利益の侵害に当たる」と判断した。新基地建設に反対する沖縄の民意こそ公益であるという県の主張は退けられた。結局は「辺野古唯一」を唱える国に司法が追随したのである。
 法定受託事務で国と地方が対立した場合、国側が訴訟を提起し、代執行という手段で地方に屈服を強いるあしき前例をつくったのだ。これは沖縄だけの問題ではない。
 国による地方自治法に基づく代執行訴訟は2例目で、判決が出たのは初めてである。
 1例目は辺野古の埋め立て承認取り消しを巡り、国が当時の翁長雄志知事を訴えた代執行訴訟で2016年3月、福岡高裁那覇支部で和解が成立している。その時の和解勧告文は国と地方の「対等・協力の関係」による法定受託事務の処理を求め、政府と県の協議継続を促したのである。司法の場において国による代執行は強権的だという認識があったと言えよう。
 今回の高裁判決によって日本の地方自治は後退したと言わざるを得ない。前回の和解から8年近くを経て、地方に忍従を強いる政府の専横とそれを容認する司法の追随姿勢はより鮮明になった。その中でも判決にある「対話による解決が望まれる」という付言を軽視してはならない。
 斉藤鉄夫国土交通相は28日に代執行を実施すると明言している。年明けの1月12日までには大浦湾側の工事に着手する見込みだ。
 少なくとも最高裁の判断が示されるまで代執行や工事を見送るべきだ。政府はこれ以上、地方自治を破壊する行為を続けてはならない。