<社説>少子化対策閣議決定 将来不安の払拭は不十分


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<社説>少子化対策閣議決定 将来不安の払拭は不十分
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 加速する少子化に歯止めをかけられるのか。

 政府は16日、少子化対策関連法案を閣議決定し、衆院に提出した。岸田文雄首相は、人口減少を最大の課題と位置付け、「次元の異なる少子化対策」を掲げている。子どもの出生数はピーク時だった1973年の約209万人から、2022年は初めて80万人を割り込んだ。少子化対策は待ったなしの状況であり、国会において与野党の真摯な議論を求めたい。
 関連法案では児童手当について、所得制限を撤廃したほか、支給対象を高校生の年代まで延長、第3子以降は3万円に倍増する内容だ。また、現在は手取り収入の実質8割を受け取れる育児休業給付については、両親が共に14日以上の育休を取った場合、最大28日間は実質10割に引き上げるとした。親の就労に関係なく子どもを預けられる「子ども誰でも通園制度」を全国で開始する。
 盛り込まれた施策は子育て中の家庭にとって負担軽減につながるだろう。だが、これらの対策だけでは、少子化の進行を食い止められるかは未知数だ。
 国立社会保障・人口問題研究所の調査によると、50歳までに一度も結婚したことがない「50歳時未婚率」は、20年の全国平均で男性28%、女性18%だった。30年間で、男性は約5倍、女性で約4倍と大きく増加している。
 背景には「経済的に不安」といった閉塞感があるとされる。少子化対策は、現在の子育て家庭への支援だけではなく、若年層が結婚や子育てをためらうことがないよう将来的な不安を払拭することが重要だ。雇用の安定化などの経済対策を効果的に打ち出し、若者が将来に希望を持てる社会にしなければならない。
 少子化対策の財源確保のため、幅広い世代から公的医療保険に上乗せして徴収する「子ども・子育て支援金」の26年4月創設を盛り込んだ。政府は徴収額について、28年度には1人当たり月平均500円弱になると試算している。
 岸田首相は、賃上げと社会保障の歳出削減で「実質的な負担は生じない」と繰り返すが、その説明は到底納得できるものではない。
 たとえ賃金が上昇しても、新たな負担が生じることに変わりはない。首相の説明は詭弁(きべん)に過ぎず、事実上の「増税」ではないか。
 公的医療保険は「病気」や「療養」に備えるものであり、少子化対策はその目的と異なる。給付の対象は子育て世帯などに限られるほか、加入する医療保険によって徴収額も異なり、不公平感を生み出す恐れがある。
 少子化対策が最重要政策なら、国民が納得できる負担の在り方を模索すべきだ。社会保障の歳出削減で医療や介護のサービスが低下すれば、将来の不安を払拭することはできない。防衛費や法人税も含めた議論を求めたい。