<社説>地方自治法改正案 国の「指示権」拡大は危険


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<社説>地方自治法改正案 国の「指示権」拡大は危険
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 政府は、国と地方自治体の関係の基本ルールを覆す地方自治法改正案を国会に提出した。自治体の自由度が高い「自治事務」にまで国の「指示権」を拡大する。国と自治体の関係を「上下・主従」から「対等・協力」に変えた地方分権改革を完全に無にするものだ。憲法の定める地方自治の本旨を否定する改正に反対する。

 改正案は「大規模な災害、感染症のまん延その他の及ぼす被害の程度において、これらに類する国民の安全に重大な影響を及ぼす事態」に対する「特例」として、国が閣議決定を経て「補充的な指示」をできるとしている。要件が極めてあいまいであり、乱用が懸念される。
 改正案は法定受託事務と自治事務を区別していない。2000年に施行された地方分権一括法で「機関委任事務」が廃止され、国が自治体にゆだねる「法定受託事務」と「自治事務」が定められた。法定受託事務について自治体側に違法などがあれば国は「是正の指示」ができ、最終的に訴訟を経て国が代執行できる。自治事務については「是正の要求」にとどまるが、災害対策基本法や感染症法など個別法で国の指示権を定めることができる。必要なら個別法を改正すればいい。
 法改正を求めた昨年12月の地方制度調査会の答申は、新型コロナの感染症危機で「さまざまな局面において従来の法制で想定されていなかった事態が相次いだ」とする。自治体から感染動向の情報が迅速に提供されないとか、国から大量に発出された通知に現場が対応できなかったとか、営業時間制限で都道府県との調整が難航したなどの事例を挙げた。これは、政府と自治体双方の対策の不備が原因ではないか。実際に動くのは自治体の現場だ。国の指示で解決できるとは思えない。
 日本弁護士連合会(日弁連)は1月に改正に反対する意見書を発表し「自治体の方が多くの情報を把握しており、国の判断に従うよう義務づけるのは誤りだ」と断じた。「日本の災害法制は基本的な災害対応自治体を市町村とした上で、その規模等に応じて、都道府県の関与、国の関与を可能とし、それぞれの責務や権限等を定めている」とし、感染症問題も含め「答申では、法制度、事実の両面において、十分な分析検証が行われたとは到底言えない」と批判した。
 礒崎初仁中央大教授も「地方自治法は本来、国と自治体の役割分担を守るための法律で、非常時の対応は個別の法律で定めるべきだ。コロナ禍を振り返っても、現場から遠い国が強権的に指示しても混乱するだけだ」と述べる。
 沖縄県は辺野古新基地を巡り、設計変更承認が法定受託事務だとして史上初めて代執行を強行された。国の強権をさらに肥大化させ、自治をないがしろにしかねない法改正は決して受け入れられない。