<社説>自民裏金処分 国民との乖離埋まらない


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<社説>自民裏金処分 国民との乖離埋まらない
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 深い政治不信を抱く国民を置き去りにするような処分だ。これで事件が決着したと考えるならば大間違いだ。

 自民党は派閥の政治資金パーティー裏金事件で関係議員39人の処分を決めた。安倍派の衆参トップであった塩谷立氏、世耕弘成氏を最も重い離党勧告、安倍派幹部を務めた下村博文氏、西村康稔氏を党員資格停止1年、高木毅氏を同6カ月、萩生田光一氏、二階派の武田良太事務総長らを党役職停止1年とした。
 そのほか政治資金収支報告書への不記載額に応じて党役職停止6カ月、戒告とした。不記載額500万円以下の議員は幹事長注意にとどめた。岸田文雄首相と二階派会長の二階俊博氏は処分対象に含まなかった。
 このような処分に納得する国民がいるだろうか。議員処分の前提となるのは実態解明であり、世論はそれを求めたはずだ。ところが、自民党内の調査や衆参両院の政治倫理審査会においても実態解明が果たされたとは到底言えない。議員処分の根拠が不明瞭なのだ。
 パーティー券を使った自民派閥の裏金づくりが始まったのはいつか。発案者は誰か。派閥から議員に還流した金の使途は何か。今回の事件で明らかにされるべきことがあいまいなまま、党の論理で処分が決まった。国民世論との乖離(かいり)は極めて大きい。政治不信はより深まったと言えよう。
 岸田首相と二階氏が処分対象とならなかったことも理解に苦しむ。岸田首相は5日の国会答弁で「派閥幹部でありながら適正な対応を取らず、長年にわたって不記載という慣行を放置した。大きな政治不信を招いた責任で厳正に対処した」と述べている。
 ならば岸田派を率いた岸田首相も当然、処分の対象となるべきである。岸田首相は個人として政治資金収支報告書への不記載がないことなどを理由に挙げているが、政治不信を招いた自民党の総裁として責任は重大だ。二階氏については次期衆院選に出馬しない意向を表明したことで責任を果たしたとされているが、国民にとって説得力を持ち得ない。
 岸田首相が処分対象から外れたことについて、離党勧告処分を受けた塩谷氏が「(首相も)同じような処分を受けるのが公平だ」と怒りを口にしたという。国民にとって極めて見苦しい事態だと言うほかない。
 二階氏はもちろん安倍派に影響力を持つ森喜朗元首相も自らの言葉で事実を明らかにすべきだ。岸田首相は電話で森氏に聞き取りをし、「裏金づくりへの関与は確認できなかった」と説明したが、これでは不十分だ。
 自民党、国会は引き続き実態解明を追求すべきだ。政治資金規正法改正によって議員が連帯責任を負う連座制の導入も不可欠である。これらのことがなされない限り、政治不信の払拭はほど遠い。