<社説>経済安保新法成立 恣意的運用の懸念拭えぬ


<社説>経済安保新法成立 恣意的運用の懸念拭えぬ
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 機密情報の保全対象を経済安全保障分野に広げる重要経済安保情報保護・活用法が可決成立した。国が信頼性を認めた人のみが情報を取り扱う「セキュリティー・クリアランス(適性評価)」制度の導入が柱だ。民間人も含め身辺調査を実施し、権限の付与を判断する。

 特定秘密保護法を拡大適用するような内容だ。国民の知る権利を侵害し、個人のプライバシーを侵す可能性があるとして根強い反対の声があった。機密情報の指定範囲もあいまいであり、恣意(しい)的な運用によって国民の権利を奪うという懸念は拭えない。
 衆院可決の際、情報の指定や身辺調査の状況を国会が監視するとの修正がなされたが、これで十分なのか。法律の必要性を国民が十分に理解しているとも言いがたい。
 G7の中でセキュリティー・クリアランスのような制度を設けていないのは日本だけであり、制度導入によって情報を保全することで国際競争力の強化を図るという考えが政府にある。欧米諸国の要請から法制定の必要性に迫られたのではないのか。
 今年2月末に法律案が閣議決定された際、高市早苗経済安全保障担当相は法制定のメリットとして情報保全の強化と日本企業のビジネス拡大の2点を挙げている。しかし、情報の範囲指定について具体的に示すことはなかった。ここに法の恣意的運用を許す余地を残している。
 国の裁量で先端技術や重要インフラなどの情報を「重要経済安保情報」に指定し、漏えいには罰則を科すという法律の運用は国民の権利とは相反するものだ。政府にとって都合の悪い情報は指定対象となりかねない。政府の都合で過剰に情報指定を増やし、国民が知ることを許さない社会は健全とは言いがたい。
 適性評価のための身辺調査も問題が大きい。調査項目は本人の犯罪歴や飲酒の節度、家族の国籍、精神疾患、薬物の使用など多岐にわたる。民間人の個人情報を調査する権限を国に与えるような法律が許されるのか。適性評価は任意であり断ることができるが、企業内では人事などで不利益を被る可能性もある。
 衆院の修正はこれらの問題に対処したものであろう。しかし、国会の監視機能を担保する制度設計がない限り、単なる空文に終わる。
 国民の知る権利を制限し、国による民間人の身辺調査を許す法律は国民監視態勢の強化という危うい方向に行き着くのではないか。特定秘密保護法を巡る論議で取り沙汰されたのが戦前の軍機保護法である。この法律によって国民監視が強化され、人権が侵されたのである。
 2022年に施行された土地利用規制法と同様、個人の権利を制限するような法律がまかり通るような社会の先には「新たな戦前」が待っている。国民論議で歯止めをかけなければならない。