<社説>住民に原告適格認める 差し戻し審で実質審理を


<社説>住民に原告適格認める 差し戻し審で実質審理を
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 新基地建設を巡る訴訟で画期的な判決が出た。地域住民の生活環境を軽視し、基地建設を強行する政府への批判に加え、国に追随する司法への警鐘ともなった。

 辺野古周辺の住民が埋め立て承認撤回を取り消した国土交通相の裁決の取り消しを求めた訴訟で、福岡高裁那覇支部(三浦隆志裁判長)は原告適格がないとして訴えを却下した一審那覇地裁判決を破棄し、審理の差し戻しを命じた。

 普天間飛行場の名護市辺野古移設に関して住民らが国を相手に提起した訴訟で、原告住民の訴えが認められたのは初めてのことだ。訴訟を起こし、裁判を受けることのできる資格である原告適格を認めた点を含めて裁判所の判断を評価したい。

 国は上告せず、差し戻し審で住民の訴えに正面から向き合ってほしい。地裁は実質審理に徹してほしい。

 抗告訴訟は、公の権力である行政の行為に対する不服の訴えである。市民側を救済するとの側面から考えれば、原告適格をあまりに狭めることはその理念に反することになるだろう。

 裁判所はこれまで限定的に原告適格を判断し、住民の訴えを門前払いしてきた。今回はその入り口論から脱したことになる。本訴訟の一審判決(2022年4月)で那覇地裁が原告の訴えを却下したのも、受忍限度超と認められるうるささ指数75の区域外に原告が居住しているとする国側の主張を認めたためだった。

 高裁那覇支部は今回、原告について、新基地建設で起こり得る航空機騒音や航空機事故などの「被害を直接的に受けるおそれのある者にあたる」と原告適格を認めた。

 1990年代末からの司法制度改革の議論の中で、原告適格の範囲拡大が要点の一つとなった。2004年の行政事件訴訟法(行訴法)の改正で直接の権利者以外にも行政処分の影響を受ける際の認定の範囲が拡大された。

 さらに最高裁大法廷は05年12月、東京都の私鉄高架化事業に反対する沿線住民らが国の事業認可取り消しを求めた行政訴訟で、原告適格を広げる初の判断を示している。

 高裁那覇支部は原告適格の範囲を拡大した行訴法の改正と05年の最高裁の判断も検討した上で判決を導いた。

 国民救済の観点から言えば、埋め立てによる基地建設から派生する被害を訴えている住民の話に耳を傾けるという司法の姿勢は当然ではある。逆に言えば、これまでの司法の判断がいかに偏狭なものであったかを高裁判決は如実に示している。

 原告からは「ようやく土俵に上がった」との声が出た。原告の訴えは、埋め立て承認の撤回を取り消した国交相裁決の取り消しである。つまり埋め立ての中止だ。

 地裁では県や国の行政行為、埋め立てに関する法律である公有水面埋立法に照らした審理が求められる。