<社説>米海兵隊グアム移転 基地負担軽減は不透明だ


<社説>米海兵隊グアム移転 基地負担軽減は不透明だ
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 在日米軍再編に伴う在沖縄米海兵隊の米領グアム移転が12月に開始される。現在、沖縄には最大1万9千人近くの隊員らが駐留しているが、再編が着実に進めば約1万人に減少することになる。

 日米両政府が沖縄の負担軽減を目指す取り組みの一つとして2006年に合意し、12年に固まった計画がようやく実行段階に移る。

 負担軽減の取り組みは歓迎すべきだが、日米両政府は中国をにらんだ共同演習を沖縄周辺で常態化させており、軍事と隣り合わせという実態は変わっていない。28年に完了するとされる移転が沖縄の負担軽減につながるか、現時点では不透明だ。

 在沖海兵隊の大半はグアムに移転するが、日本政府は台湾や尖閣諸島での有事に備えて宮古や八重山地方に自衛隊駐屯地を相次いで開設するなど、軍備を強化している。今後は米軍との施設の共同使用を進める構えだ。

 軍事行動を活発化させる中国の動きは確かに注視せねばならないが、再編に伴い新たに軍備を拡大させることでかえって周辺諸国を刺激することにはならないか。負担軽減を実現すると同時に、住民の生命と財産を守るため紛争・戦争の火種を取り除く外交を最優先にすべきだ。

 そもそも海兵隊のグアム移転は、米軍普天間飛行場の移設に伴う名護市辺野古の新基地建設に必然性がないことを示すものだ。

 日米両政府の06年の合意では、グアムに在沖米海兵隊の司令部を移す計画だった。だが、12年の見直しで司令部を沖縄に残し、在沖米海兵隊の主力歩兵部隊である第4連隊のグアム移転に変更された経緯がある。

 背景には、中国のミサイル射程内にある沖縄の米軍基地の脆弱(ぜいじゃく)性がある。海兵隊は平時は一定の距離を保ちつつ、有事の際は小規模部隊を島しょ部に分散させる「遠征前方基地作戦(EABO)」を展開する方針だが、主力の実戦部隊がグアムに移転するのなら、多額の予算を必要とする辺野古新基地を造る必然性は乏しい。

 辺野古新基地建設の完成時期について、在沖米軍幹部は「早くて2037年になる」とした上で、完成後も普天間飛行場を継続使用する可能性を示唆している。海兵隊のグアム移転が進んでも、「世界一危険」だとされる普天間飛行場の返還がさらに遅れれば、沖縄の負担軽減は実現されることはない。日米両政府は海兵隊の移転を速やかに進めると同時に、普天間飛行場の無条件返還にかじを切るべきなのだ。

 米軍再編の前提は沖縄の負担軽減であったはずだ。交戦を前提にした共同訓練の拡大や新基地建設は、周辺国に軍備増強の口実を与え、新たな火種になりかねない。軍拡競争の行き着く先は、住民を巻き込んだ悲惨な戦争だということを忘れてはならない。