<社説>バス置き去り死判決 子ども守る体制再点検を


<社説>バス置き去り死判決 子ども守る体制再点検を
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 二度とこのような悲劇を起こしてはならない。

 静岡県牧之原市の認定こども園で2022年9月、当時3歳の園児を通園バスに放置し熱中症で死亡させたとして、業務上過失致死罪に問われた前園長に、静岡地裁は禁錮1年4月の実刑判決を言い渡した。元クラス担任は禁錮1年、執行猶予3年とした。

 子どもたちの命を守るために、子どもたちに関わる全ての人たちは改めて安全対策の徹底に努める必要がある。

 判決によると、当日のバスの運転手だった前園長は、降車時の人数確認を怠り、園児が取り残されたままなのに窓を閉め切ったバスを施錠、元クラス担任は登園していないのに所在確認をせず、園児を車内に閉じ込めて熱中症で死亡させた。

 判決理由で国井恒志裁判長は、21年7月に福岡県の保育園の送迎バス内で5歳児が熱中症で死亡する事件が起きていたことから、前園長は危険性を予見できたと指摘した。しかし、乗降車時のマニュアルや安全管理計画を策定していなかったとし「日常的に園児は危険な状態に置かれていた」と厳しく非難した。ずさんな安全管理体制を断罪した判決だ。

 子どもたちが通園バスに取り残される事例は多い。通園バスの安全装置を提供する企業が23年5月に実施した、小学生以下の子どもを乗せている全国の運転者らに実態を尋ねた調査結果では、20.4%が「1年以内に子どもを残したまま車を離れたことがある」と回答している。沖縄県内でも22年9月、糸満市の市営バスに小学生が取り残される事故があった。

 日常的な業務に「慣れ」が出てしまい、安全確認への意識がおろそかになってはいないだろうか。

 静岡県牧之原市でのケースも、前園長は「親族の事柄で病院で打ち合わせをすることになっていて焦っていた」と点検を怠った理由を述べているほか、元クラス担任は欠席したと思い込み確認を怠っている。基本的な確認作業が不十分だったと言わざるを得ない。

 政府は23年4月、全国の保育所などのバス約5万4千台を対象に安全装置設置を義務付けた。だが、それだけで子どもたちの安全が完全に担保されるわけではない。不具合が発生したり、操作ミスがあったりすることもあり得る。

 安全装置だけに頼ることなく、人による最終的な安全確認が重要だ。保育所やこども園など、それぞれがマニュアルを策定し徹底するほか、安全管理体制が十分かどうか随時見直すなど、子どもの安全に関する意識をより高めてほしい。職員らに対する研修などもさらに拡充すべきだ。

 これら安全管理体制の徹底は、保育所など保育・学校に限ったことではない。民間や自治体などが運営するバスでも、改めて安全管理体制の徹底に努めてほしい。