<社説>東京都知事選 選挙の在り方が問われた


<社説>東京都知事選 選挙の在り方が問われた
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 注目の東京都知事選が終わった。現職有利と言われていた通り、結果は小池百合子氏の3選だった。史上最多の56人が立候補した今回の都知事選は、選挙の在り方を巡りさまざまな問題が浮上し、その在り方を問う機会となった。

 まず政策論争が乏しかったことが指摘される。日本記者クラブ主催の共同記者会見や東京青年会議所のオンライン討論会があっただけで、テレビ局などが企画した討論会などは、小池氏は公務を優先して出演を避けた。

 与野党対決を目指し、立憲民主党と共産党が支援した前参議院議員の新人、蓮舫氏が争点にしようとした明治神宮外苑再開発の議論は深まらず、他の政策も違いが明確に伝わらなかった。現職は批判を受けて立つ側である。論戦を避ける姿勢は問題だ。

 蓮舫氏の敗因として、政党色が出過ぎて無党派層をつかめなかったと指摘されている。都知事選の共同通信の出口調査で、無党派層の投票先は無名に近かった新人の前広島県安芸高田市長の石丸伸二氏が37%、小池氏が30%で、蓮舫氏は16%にとどまった。裏金問題で厳しい逆風が続く自民党だけでなく、既成政党全体への不信が浮き彫りになった選挙でもあった。

 政党の支援を受けていないことをアピールした石丸氏は、SNSを駆使して街頭演説の回数をこなし、若年層に支持を広げた。共同通信の出口調査では、18~29歳の41%が、新しい選挙のスタイルを示した石丸氏に投票した。投票率は60.62%と、前回から5ポイント以上アップしたことに、石丸氏が貢献した可能性がある。新聞・テレビよりネットに親しむ若者にどう政治参加させるのか、今後の大きな課題になろう。

 厳しい批判にさらされたのは政治団体「NHKから国民を守る党」である。1人の知事を選ぶ選挙に24人も立候補させ、ポスター掲示板と政見放送の約半分を占めた。さらに一定の寄付で掲示板のスペースを提供するという「販売」まで行い、選挙に関係のないポスターが多数張り出された。政見放送には19人登場し、ほぼ同じ文言で党首のユーチューブチャンネルの視聴を呼びかけるなどした。全体の放送時間はNHK総合だけで11時間に及んだ。

 こうした混乱が有権者の関心を高めたという見方もあるが、識者からは「公選法の趣旨から逸脱している」「民主主義に対する裏切り」など厳しい批判が上がった。候補者を知るために重要な掲示板や政見放送が、不快感や嫌悪感を持たれては元も子もない。

 今後、掲示板の目的外使用を禁止するなど公選法の見直しが議論されそうだ。供託金ではなく一定数の支持者の署名を義務づけるべきだとの意見もある。言論表現の自由を尊重した健全な民主主義社会にするために、民主主義の根幹である選挙の在り方について熟議が必要だ。