<社説>防衛省・自衛隊不祥事 国民の信頼得られない


<社説>防衛省・自衛隊不祥事 国民の信頼得られない
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 特定秘密の不適切運用やパワハラなどの不祥事を受け、防衛省は指揮監督義務違反を問われた海上自衛隊トップの酒井良海上幕僚長を事実上更迭とするなど懲戒を含め218人を処分した。事務方トップの増田和夫事務次官、制服組トップの吉田圭秀統合幕僚長ら最高幹部を訓戒とした。

 過去最大級の規模で、各組織トップの一斉処分は異例だ。もちろん処分によって問題が終結したことにはならない。現状において防衛省・自衛隊が国民の信頼に足る組織ではないことは明らかだ。

 防衛力増強を理由とした防衛増税を前にした不祥事と処分である。今後、税負担を強いられる国民は今回の不祥事を許さないであろう。日本の防衛政策の内実が問われている。なぜ、このような事態になったのか、政府は明確に説明しなければならない。

 処分の対象となった不祥事は(1)特定秘密の不適切運用(2)内部部局幹部によるパワハラ(3)海上自衛隊の潜水手当不正受給(4)自衛隊施設での不正飲食―の4項目である。

 酒井海幕長は「根底にあるのは、隊員の順法精神の欠如や組織のガバナンス能力の欠落と考えている」と述べている。この発言は防衛省・自衛隊組織の深刻な実態を如実に示すものだ。国民の監視の目から見えない組織内部で不正が長年横行し、統制が利かなかった可能性がある。

 武力を保持する組織が自らの不正を律することができないというのは極めて危険である。日本は「軍部の暴走」を許し、戦争によって国を破局に追いやった経験がある。このような事態を繰り返さぬよう、防衛省・自衛隊は解体的な出直しが迫られている。

 特定秘密の不適切運用では、懲戒処分26人、訓戒など89人という最も多くの処分者を出した。特定秘密保護法に基づき、秘密を扱う公務員らの身辺を調査する「適性評価」を経ていない隊員に特定秘密を取り扱わせたケースがあったという。まさに順法精神が欠けていると言わざるを得ない。

 「背広組」が中心の内部部局でパワハラによる懲戒処分が出るのは初めてである。元自衛官が実名で性被害を訴えたことを機に自衛隊内のパワハラ・セクハラの横行が問題視されている。ハラスメントの一掃を急ぐべきだ。

 海上自衛隊の潜水手当不正受給は、潜水艦救難艦2隻に所属するダイバーが「飽和潜水」の訓練で、2017年4月から22年10月までの間、計4300万円を水増しして受給したというものだ。隊員の潜水手当は税金ではないか。納税者である国民の目から見て許しがたい行為だ。

 訪米中の岸田文雄首相は「国民に心配をかけておわび申し上げる」と謝罪したが、このような謝罪だけでは済まない。不祥事の再発防止策を確立しない限り、防衛力増強に向けた増税など到底受け入れるわけにはいかない。