<社説>那覇軍港環境アセス 移設なき返還で自然守れ


<社説>那覇軍港環境アセス 移設なき返還で自然守れ
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 浦添市西側の海を埋め立てて米軍那覇港湾施設(那覇軍港)の代替施設を建設する計画で、環境影響評価(アセスメント)の第1段階となる配慮書の公告縦覧が10日に始まった。沖縄防衛局はアセスとは別に、設計のためのボーリング調査の掘削を今月中に開始する方針だ。

 浦添市の西海岸は米軍キャンプ・キンザーの存在で開発が及ばず、沖縄本来のイノー(礁池)と豊かな生態系を今に残すことができた「宝の海」だ。沖縄の負担軽減に逆行する新基地は不要だ。移設なき軍港返還こそが、かけがえのない環境を守る道だ。

 1974年に那覇軍港の移設条件付き全面返還が日米合意で決まって50年がたつ。半世紀を経ても返還が実現していないのは、日米両政府が県内移設の条件を付け、それに固執してきたためだ。

 沖縄の過重負担を軽減すると言いながら、基地が飽和状態にある県内の置き換えではどこに移そうと地元の合意は得られない。結果的に返還が棚上げされる。普天間飛行場の辺野古移設と同じ構図だ。

 そもそも軍港の位置を那覇港の浦添埠頭(ふとう)側に移すだけにとどまらない。日米両政府は那覇軍港の代替施設について「現有機能の維持」を強調するが、現在の那覇軍港の機能が明らかにされない上、代替施設の機能や完成後の運用についても説明を避けている。

 那覇軍港の水深は約10メートルにとどまるが、浦添沖の水深はより深い。平和団体からは、強襲揚陸艦や原子力空母の大型船が入港可能になると警戒の声が上がる。垂直離着陸輸送機オスプレイが代替施設で離着陸する可能性も否定できない。機能が強化された新たな基地となる恐れが強い。

 県内移設に伴い、近代化された設備や最新の機能を備えた基地を使えるようになれば、米軍の「焼け太り」もいいところだ。沖縄の米軍駐留が固定化され、県民は永続的に基地被害を強いられる。

 さらに、政府は南西諸島で自衛隊基地を増強し、民間インフラまで自衛隊が平時から使用できるようにする「特定利用空港・港湾」の指定を推し進めている。軍港だけでなく民港も含めた那覇港全体が軍事使用されかねない。

 浦添西海岸は西海岸道路の開通や大型商業施設の開業で多くの県民にとって身近になり、潮干狩りや海遊びを楽しむ光景が見られる。そこからの眺望を遮る巨大な軍港が出来上がれば景観は一変する。

 アセス配慮書は、代替施設の工事実施箇所やその周辺で、環境省レッドリストに登録された絶滅危惧IA類など214種が生息している可能性があると指摘。事業実施想定区域内に主な生息域がある延べ131種について「生息環境への影響が生じる可能性がある」と記述した。

 市民の手に戻ってきた浦添西海岸の貴重な自然環境を、新たな基地建設で消失させれば損失は計り知れない。