<社説>米兵事件共有されず 恣意的な判断なかったか


<社説>米兵事件共有されず 恣意的な判断なかったか
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 情報共有・通報体制は機能不全に陥っていると言わざるを得ない。昨年12月の米兵少女誘拐暴行事件、今年5月の米兵女性暴行事件について、首相官邸に情報が入っていた一方、防衛省は報道で明るみに出るまで把握していなかった。今回の事件は県や市町村にも情報が伝達されてなかったばかりか、政府内でも情報共有されていなかったのだ。

 米軍人・軍属による事件・事故の通報手続きは、1997年3月の日米合同委員会で合意されている。この中では、事件・事故が発生した際には米大使館から外務省へ通報する経路と、米軍側から防衛局に通報する経路がある。

 今回、米大使館から外務省に積極的な通報はなく、外務省が把握した後で大使館との情報共有が始まった。一方、在沖米軍から沖縄防衛局へ通報はなく外務省から防衛省への通報もなかった。

 県や市町村への通報は防衛局がその役割を担う。米軍、外務省はなぜ防衛省・沖縄防衛局に通報しなかったのか。

 今回の事件に関しては、沖縄県警からも県に情報提供されていない。県警側はその理由に「プライバシー保護の観点」を挙げる。外務省は県警の対応を受け、通報しなかったと説明している。

 外務省や県警は、県や市町村に通報すると被害者のプライバシーが守れないと認識しているのだろうか。被害者の2次被害防止、プライバシー保護は当然であり、関係機関が一致して取り組まなければならない。そのためにも情報共有は前提となるべきだ。

 誘拐暴行事件は3月に米兵が起訴されたが、翌4月には日米首脳会談が予定されていた。事件は首相官邸に伝達されており、岸田文雄首相も知っていた可能性がある。しかし首脳会談で岸田首相からバイデン大統領に抗議した形跡はない。首相官邸、外務省に日米首脳会談に影響を及ぼさないような配慮があったと疑わざるを得ない。

 林芳正官房長官は情報共有について見直しを表明したが、今回の米軍や外務省の対応を検証しなければ、情報提供に恣意(しい)的な判断が入る余地を残さないだろうか。

 速やかな情報伝達は、被害者への適切なケアや補償、行政と地域が連携した被害防止、綱紀粛正要請による再発防止など住民の生命・財産を守るためには不可欠だ。

 1995年の米兵少女乱暴事件を機に、政府は在沖米軍基地問題を重要課題に位置づけてきたが、辺野古新基地建設を巡る対立が長期化する中、政府内の関心低下も指摘される。しかし、県民が望まぬ米軍基地の駐留から派生する事件・事故への適切な対応は、自国民を守るための最重要の責務である。

 県民の生命・財産と相反する日米安保体制は許されるものではない。同時に、長引く県と政府の対立が県民の安全に影響するようなこともあってはならない。