<社説>政府の偽情報対策 知る権利侵さぬ仕組みを


<社説>政府の偽情報対策 知る権利侵さぬ仕組みを
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 インターネットで拡散する偽情報を巡り、総務省の有識者会議は恒久的な対策の制度化に向けた案をまとめた。

 著名人に成り済ました投資詐欺広告が急増しているほか、1月の能登半島地震では、交流サイト(SNS)に投稿された虚偽の救助要請により実際に消防が出動するケースもあった。

 偽情報の拡散は社会的な混乱を招きかねず、選挙にも影響を与え、民主主義の根幹をも揺るがしかねない。他方、制度運営には知る権利との兼ね合いが問われる。

 投資詐欺を巡っては、政府が6月に当面の被害防止に向けた総合対策を策定しているが、強制力がなく事業者の自主的な対応の要請にとどまっていた。対策案でも「自主的な取り組みのみには期待できない状況」と指摘する。生成AIなどの新技術で偽情報や誤情報の増加・巧妙化が予想される中、包括的な対策を打ち出している。

 対策案では、対応を検討すべき偽・誤情報の範囲について、原則として(1)検証可能な誤りが含まれている(2)「違法性や客観的な有害性」や「社会的影響の重大性」―などを要件に挙げた。その拡散を抑止するため、情報の削除や収益化停止などの措置を実施するとしている。

 違法な偽情報全般に対して、対策案は行政機関からの申請に基づく削除の迅速化を盛り込んだ。この際、行政の恣意(しい)的な申請を防ぐために、申請に関する手続きなどを事前に策定・公表するなどの方策が不可欠とも明記した。

 対策案も指摘している通り、行政機関が恣意的に情報を削除するようなことはあってはならない。政府にとって都合の悪い情報が偽・誤情報として隠蔽(いんぺい)されれば、国民の知る権利が侵害される恐れがある。これらを防ぐためにも偽・誤情報の範囲を明確にし公表することが求められる。

 情報の真偽を確認する「ファクトチェック」について、行政機関の関与は限定的でなければならない。特に私たち沖縄側が恐れるのは、行政によるファクトチェックによって、安全保障に関連する情報を政府が統制する可能性がないかということだ。

 特定秘密保護法に加え、機密情報の保全対象を経済安保分野にも広げた新法も成立し、情報統制の恐れがある動きも進む。偽・誤情報対策でも行政機関による乱用を防ぐ仕組みを担保すべきだ。

 対策案では政府・行政機関やファクトチェック関連団体、事業者などによる協議会の設置も盛り込まれた。偽・誤情報が与える影響や取り組みのガイドラインを策定するとしている。協議会設置にあたっても、政府の意向を追認する機関にならないような制度設計が求められよう。

 偽・誤情報による被害防止対策は喫緊の課題だが、その対策の名の下に、政府による情報統制が進まぬよう、議論の行方を注視していきたい。