<社説>安室奈美恵さん引退へ 時代を象徴した歌姫伝説


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 トップアイドル、カリスマ、歌姫…。安室奈美恵さんを形容するには幾つもの言葉がある。10代で芸能界の頂点へ駆け上がり、20代で多くの若者の憧れとなった。出産を経て、歌と踊りはさらに磨かれ、日本を代表する女性アーティストの地位をつかんだ。

 10代、20代、30代と常に時代をリードし、象徴する存在であり続けた。40歳の誕生日に発表した引退表明は残念だが、本人は「節目の年に決意した」と言う。自ら時代の区切りを付けた決断は、希代の歌姫にふさわしい幕切れだ。
 安室さんの足跡を販売実績や観客動員で見ると、改めてそのすごさが分かる。
 1995年から23年連続でのシングルトップ10入りは歴代1位タイ。96年に史上最年少のレコード大賞を受賞し、97年には2年連続の栄誉に輝いた。
 97年には「CAN YOU CEREBRATE?」が女性ソロ歌手で歴代1位となる229万枚を売り上げた。
 2008年には史上初めて10代、20代、30代の三つの年代でミリオンセラー(100万枚以上の売り上げ)を記録した。
 12年の5大ドーム公演では、女性ソロ歌手で歴代トップとなる34万人が安室さんの歌を聴くために足を運んだ。
 安室さんのライブは時にスポーツにも例えられる。曲の合間のおしゃべりはほとんどなく、2時間近くを歌い踊ることに集中するからだ。競技者のように鍛えた体と声による圧倒的な表現が安室さんへの支持につながっている。
 さらに厚底ブーツにミニスカートなど安室さんのファッションをまねた「アムラー現象」など社会に与えた影響も大きかった。
 人気が絶頂にあった20歳での結婚、出産は子育てとキャリアのどちらかを選ぶのではなく、どちらも両立するという新たな女性像を示した。女性の生き方を問う音楽情報会社のアンケートでは「自立している女性の象徴」として1位を獲得したこともある。
 現在ではかつての若い女性の憧れという存在を超え、世代や性別にとどまらない支持を得ている。
 単に歌や踊りがうまいだけの存在であれば、これほどまでに支持が広がらなかっただろう。安室さんを支えるのはその選択と生き方が多くの人の共感を得たからだ。
 安室さんは05年にイギリスの雑誌インタビューでこう答えている。「アイドル時代は操られた機械だった。考える時間も権利も与えられなかった」。そうした状況にあらがい、歌うこと、子どもを育てることを生きがいに自ら信じる道を進んだという。
 「努力の人」とも評される安室さんが芸能の枠を超えて示したのは、自らを信じて鍛え上げ「精神の自立」を目指す生き方でもあった。
 引退までの残り1年、沖縄が誇る歌姫の生き方をしっかりと記憶に刻みたい。