<社説>県が医療通訳支援 国挙げて安心な観光地に


この記事を書いた人 琉球新報社

 外国人観光客の急増に伴い、病気やけがで病院に駆け込む外国人の数が増えている。観光立県を目指す沖縄として、万が一の際の医療支援は欠かせない。

 県は今月から医療現場からの電話で通訳を行う「Be.Okinawaインバウンド医療通訳コールセンター」を開設した。観光業者や医療機関がセンターに電話することで、365日24時間体制で英語や中国語、韓国語など6カ国語の通訳サービスを受けられる。
 言葉の壁により治療方針や医療費を巡るトラブルが起きている。県医師会が2017年、県内救急病院を対象に調査したところ、「コミュニケーションが取りにくい」などで診療に時間がかかる現状が浮かび上がった。診療費を支払われないケースが少なくとも21件あり、未収金は合計827万円に上った。この数字は19救急病院だけで、一般の病院を含めるとトラブルはもっと増えるとみられる。
 治療について患者に説明するには医療用語を伝える専門知識のある通訳が必要だ。こうした専門の通訳の拡充も急務だ。
 未収金は旅行保険に加入していない旅行者が多いことが要因で、クレジットカードの決済ができないトラブルも起きている。支払わずに帰国した場合は病院側の泣き寝入りとなる。急性大動脈解離で治療費が500万円以上かかったが、未払いの事例もあった。現場からは通訳支援を求める声が高まっていた。
 県が16年に実施した医療通訳の実証実験では、風邪やけがなどの軽い症状の診察が多かった。そのため対象を診療所などを含む約千の機関に拡充した。
 昨年、妊娠7カ月の台湾人観光客の女性が沖縄旅行中に早産した。赤ちゃんは未熟児で、2カ月近く沖縄で治療を受け、800万円の医療費がかかった。その際は多くの県民らの善意で約2千万円が集まり、余剰金1100万円余は県に託され、外国人観光客の医療費支援に使われるという。
 昨年の沖縄観光は外国人客が前年比22%増の254万人となり、今年に入っても好調だ。急増する観光客に対応するには善意だけでなく、制度として医療に対応することが重要だ。問題が起きた際には医療機関の負担を軽減する仕組みや、外国人患者の診察統一マニュアルなどが必要ではないか。
 政府も訪日外国人旅行者の医療支援や対策を協議するワーキンググループ(WG)を健康・医療戦略推進本部に新設し、成長戦略や19年度予算の概算要求に盛り込む方針だ。政府は20年の東京五輪・パラリンピックには訪日客を4千万人に増やす目標を掲げており、ようやく対策に乗り出す。
 安心・安全は国際観光地として必須の条件だ。沖縄も例外ではない。県だけでなく、国を挙げて対策に乗り出すべきだ。