<社説>自民参院選制度改革 党利党略のご都合主義


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 自民党は参院選の「1票の格差」是正に向けた公選法改正案を了承した。合区を継続しつつ、比例代表を合わせて定数を6増する内容だ。

 具体的には、議員1人当たりの有権者数が最も多い埼玉選挙区の定数を2増やし、1票の格差を3倍未満に抑制する。比例代表の定数も4増やし、事前に定めた順位に従って当選者を決める「拘束名簿式」の特定枠を導入する。
 狙いは「鳥取・島根」「徳島・高知」の合区対象県で選挙区に擁立できなかった県の自民党候補を特定枠に登載し、救済を図る。党利党略のご都合主義である。
 最高裁は、都道府県単位で構成されてきた参院選挙区間の「1票の格差」が最大5・00倍に達した2010年参院選と、4・77倍だった13年参院選を「違憲状態」と判断。これを受け、16年参院選では鳥取、島根両県と徳島、高知両県をそれぞれ一つの選挙区とする「合区」が導入され、格差を是正した。
 改正公選法付則は19年参院選へ「選挙制度の抜本的見直しについて必ず結論を得る」と明記し、各党が議論を進めている。
 自民党は人口が少ない地域で強固な地盤を持つ。1票の格差拡大で合区対象県が増えれば議席が減るとの危機感が強い。このため、人口を絶対的な基準とせず、改選ごとに各都道府県から1人以上選出できるようにする憲法47条と92条の改正条文案を3月にまとめていた。
 それを来年夏の参院選までに改憲が「間に合わない」という理由で、合区を維持して定数増で対応するというのであれば、党方針と矛盾する。
 党内から異論もある。小泉進次郎筆頭副幹事長は「国民にどう映るか心配だ。なめてはいけない」と懸念を示した。船田元・憲法改正推進本部長代行は「お手盛りの印象が拭いきれない」と指摘している。
 改正公選法の付則に掲げた「抜本的見直し」とも程遠い。議員の身分に関わるだけに、徹底的に論議すべきである。
 今回、自民案で一部導入する「拘束名簿式」はかつて導入され、当選と落選を分けるライン上で、名簿順位をめぐって熾烈(しれつ)な争いが展開された。このため01年から、得票数の多い候補者から順に獲得議席の分だけ当選させる「非拘束名簿式」を導入したはずだ。それを政党の都合で復活させるのは筋が通らない。
 参院の選挙制度について、日本維新の会は当面、全国11ブロックの大選挙区制と全国比例の並立制を提起。立憲民主党は(1)合区を増やす(2)ブロック制導入(3)選挙区と比例代表の定数比率変更―のいずれかによる格差是正を検討する。公明党は全国11ブロックの大選挙区制を主張。共産党は全国9ブロックの比例代表制を打ち出した。
 与野党とも隔たりを埋め、改革を実現する責任がある。