<社説>G7サミット閉幕 国際秩序の瓦解を防げ


社会
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 カナダで開かれた先進7カ国首脳会議(G7サミット)は、米国と他の6カ国の対立を鮮明にして閉幕した。G7が従来進めてきた反保護主義の政策に米国が真っ向から対立し、トランプ米大統領は閉幕前に早退する異例の事態となった。かろうじて首脳宣言の発表にはこぎ着けたが、亀裂はもはや隠しようがない。深刻な事態だ。

 サミットの経済討議では、米国が日本や欧州連合(EU)、カナダから輸入する鉄鋼やアルミニウムに対して追加関税を一方的に課したことに対し、各国からの批判が相次いだ。各国は貿易収支や関税率などのデータを示しながら激しく応酬した。安倍晋三首相は「G7が貿易制限措置の応酬に明け暮れることは、どこの国の利益にもならない」と各国に協調を呼び掛けたが、議論は平行線をたどった。
 今回のサミットでは、通商政策だけでなく、トランプ米政権が離脱を表明したイラン核合意や地球温暖化対策の枠組みである「パリ協定」を巡っても深刻な対立が予想されていた。G7の対立が世界の波乱要因になりかねない状況だ。
 発表された首脳宣言では「ルールに基づく貿易制度の重要な役割を強調し、保護主義との闘いを続ける」との文言を入れ込んで、反保護主義の名目を保った。
 しかし、トランプ大統領は閉幕後すぐに首脳宣言を「承認しない」と表明する異例の行動に出た。米国の貿易赤字削減につなげるために自身が主張して盛り込んだ「関税の引き下げに努力する」との成果も自ら放棄する荒っぽい議論の幕引きだ。
 米国第一主義を掲げ、多国間の枠組みを軽視するトランプ大統領の登場は、G7の弱体化を進めた。
 G7は民主主義や市場経済といった価値観を共有し、国際秩序を保つ一定の役割を果たしてきた。分裂は国際秩序を揺るがし、世界全体の損失だ。瓦(が)解(かい)を防ぐ必要がある
 一方、政治討議では北朝鮮の核・ミサイル開発の放棄について「完全かつ検証可能で不可逆的な廃棄を要求」し、12日にシンガポールで開かれる米朝首脳会談の成功を後押しすることも確認した。北朝鮮が完全な非核化に向けた具体的な行動を取るまで国際社会が連携して取り組むことは重要だ。
 世界経済の議論の場が、中国などが加わる20カ国・地域(G20)首脳会合に移り、G7の影響力が低下して久しい。しかしG7が協調を導き出してきた意義は大きい。中国などに国際ルールを順守するよう促す役割も果たしてきた。自国優先の反グローバリズムの台頭の中で、国際協調を主導するG7の役割はますます重要となる。
 日本も主要国の一員としてトランプ大統領の暴走を止めるよう粘り強く働き掛け、分裂を防ぐ役割がある。